故スターリング・モス卿のサイン入り、小さくなったメルセデス 300SLR
自動車エンスー界において毎年8月の恒例行事となっている「モントレー・カーウィーク」では、欧米を代表する複数のオークションハウスが、カルフォルニア州モントレー半島の各地でクラシックカー/コレクターズカーの大規模オークションを開催しています。そんななか、オークション業界における世界最大手の座を「RMサザビーズ」社と争っている英国「ボナムズ」社が開催した「The Quail 2024」オークションでは、元来は子どものために製作されつつも、大人向けコレクターズアイテムとなっている「ジュニアカー」たちも多数出品されていました。今回はその出品ロットからメルセデス・ベンツ「300SLR」を忠実に1/2スケール化した1台を紹介します。
ミッレ・ミリアの伝説が半分サイズに?
この夏、ボナムズ社の「The Quail 2024」オークションに出品されたのは、1955年に開催された「ミッレ・ミリア」にて、故スターリング・モス/デニス・ジェンキンソン組が総合優勝を果たした、メルセデス・ベンツ「300SLR」を1/2スケールで復刻した、魅力的なジュニアカー。
シャシーはパウダーコートされたスチールで組み立てられ、ボディワークはグラスファイバーで作られている。ノーズと両サイドには、のちに「メルセデス・ベンツ SLRマクラーレン」限定バージョンの車名にもなった「722」のゼッケンナンバーが麗々しく掲げられる。これは1955年ミッレ・ミリアにて、ブレシアのスタートが朝7時22分だったことを意味するもので、今なおメルセデスの重要な歴史的アイコンとなっている数字なのだ。
このジュニア向け300SLRは、もちろん実走可能なものである。電動モーターを組み合わせたバージョンも存在するそうだが、今回の出品車はリアに搭載される排気量48ccの単気筒ガソリンエンジンに遠心式のクラッチを組み合わせることで、最高速度は15mph(約24km/h)に達するという。
また、メカニカル式ピストンキャリパーを取り付けた、シングルのディスクブレーキを装備し、12インチのスチールホイールおよびバルーンタイヤに組み合わされる。
強気なエスティメートが影響した……?
いっぽうインテリアに目を移すと、シートは手縫いのネイビーレザーとタータンクロス柄ファブリックのコンビ。これは、オリジナルの300SLRへのオマージュである。また、フロアにはグレーのカーペットが敷かれ、その両端およびサイドパネルはダイヤモンドキルト仕上げのレザーで設えられている。
ステアリングホイールは、4本スポークのポリッシュアルミ。くわえて「722」300SLRを特徴づけていたエアロスクリーンは、プレキシグラスで再現されている。
ボナムズ社の公式ウェブカタログには、製作したコンストラクターに関して特記されてはいないようだが、いわく「スターリング・モス自身が署名したプラークを特徴とする数少ない『ハーフスケール』作品の1つ」とのこと。つまり、昨今この種のジュニアカー業界において意欲的な作品を続々と生み出している「ハーフスケール」ブランドのプロダクトということである。
ちなみに、まだ世界がコロナ禍にあった2021年5月に、ライバルであるRMサザビーズ社がインターネットのオンライン限定で開催したオークション「OPEN ROADS, MAY」では、同じくハーフスケール社製の300SLRジュニアカーが、そもそも5000~1万英ポンドという、かなり安価なエスティメート(推定落札価格)とともに出品。実際のオンライン競売では1万800英ポンド、当時のレートで日本円換算すれば約168万円で落札されたセールス実績がある。
いっぽう「The Quail 2024」オークションへの出品に際して、ボナムズ社は4万ドル~6万ドル(邦貨換算約610万円〜約920万円)という、どう見ても強気に映るエスティメートを設定していた。
しかし、この出品ロットは「Lot to be sold without reserve(最低落札価格なし)」とされていたにもかかわらず、実際に行われた競売では売り手側と入札希望者の思惑があまりにも乖離していたのだろうか、残念ながら「Not Sold(流札)」に終わったようだ。