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フィアット新型「600e」と暮らしてみたら「500L」との2台体制を夢見てしまい…ファミリーカーとしてオススメの1台です【週刊チンクエチェントVol.47】

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TEXT: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)  PHOTO: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)

ワインディングロードでも楽しい600e

ならば走ってみたらどうなんだ? ってことになるんだろうけど、いや、これがもうまったく不満なし! なのだ。ファミリーユースに最適な実用コンパクトSUVっていうのは内燃エンジンのものもモーター駆動のものも多々あるわけで、その中でもかなりいい線いってるんじゃないか? と素直に思えた。

いや、スポーツ系じゃないからやたらと速いってわけでもなくて、そのあたりはこのクラスのバッテリーEVとしての標準的なレベルを大きく上回ってるわけじゃないんだけど、そこはやっぱりモーター駆動。その加速の強力さには思わずニヤリとさせられるし、欲しいときに欲しい分だけトルクを与えてくれる豊かさと瞬発力には心ときめくし、極めて滑らかに速度が伸びていく感覚には内燃エンジンとはまた違った気持ちよさを感じる。重たいバッテリーをドーンと積んでることによる車重の重さは、乗り心地のよさや安定感と重厚感へと巧みに変換されてるし、車内は素晴らしく静かだから、4人乗車の後席の友人とも難なく話せて想い出話に花を咲かせられたし。とにかく街中や郊外などをフツーにドライブしていても、高速道路でちょっと足を伸ばした日帰りの旅に出たときも、常に御機嫌な自分でいられた。さらにはバッテリーが低い位置にレイアウトされてるおかげでハンドリングもなかなか具合が良くて、とても素直に曲がってくれる。行きたい方向へすんなりと向かってくれる。

それだけならまだしも、“まさかねぇ……”みたいな出来心でワインディングロードへ滑り込み、元気よく走ってみたら……600eはやっぱりフィアットだった。前後左右の荷重移動の自由度が高く、曲がりはじめると特有の粘り腰を見せながら結構なスピードでグイグイとコーナーをやっつけていく懐深いシャシーの性格。楽しさと安心感をしっかり両立させたその曲がりっぷりが、ちょっとしたスポーツカーを走らせてるような気分にさせてくれる。たとえ実用車であっても“曲がる”ということのワクワク感を秘かに──だけどしっかりと──大切にしているのがフィアットの伝統。500eがそうであるように、600eにもそれは確実に受け継がれている。バッテリーEVだからといって──逆にバッテリーEVだからこそ──これっぽっちも手を抜いてない。

誰もが安心して運転操作ができる自然なフィーリング

と、こんなふうにまくし立てるといかにもEVの特性を強調したクルマのように思われちゃうかもしれないけど、実は逆だったりする。たとえば先述のハンドリングにしても、ステアリングのフィールはクイックなのではなくむしろスロー気味で、切り込みすぎてしまうミスを誘発しないセッティング。加速はたしかに見た目より遙かに鋭いけど、アクセルペダルを踏んだ瞬間にトルクをドーンと炸裂させるのではなく、上手に角を丸めた感じで送り出していく。癖らしい癖も、まったく見当たらない。つまりどういうことなのかといえば、誰もが安心して運転操作ができ、自然で穏やかなフィールとともにバッテリーEVならではの魅力を味わえるように躾けられているのである。これはファミリーカーとしての実に正しいあり方であり、ユーザーに対するフィアットの優しさ、良心なのだと思う。

全体的には、何かどこかが突出して尖ってるようなところがなく、バランスに優れた優等生的なバッテリーEVという印象。あまりにまとまりがいいので、ともすれば走りは無個性みたいに感じてしまう人もいるかもしれない。でも、乗ってるうちにジワジワとよさが身体に染み入ってくるようなところはあるし、一歩深く足を踏み入れてみると伝統に則ったスポーティさが貌を見せてくれる。間口が広く、奥が深いのだ。……ホメ過ぎか?

航続距離関連の話をしておくと、WLTCモードで493kmというそのままの数字はさすがに無理筋だったけど、当たり前のように満充電で400km前後の距離を走行できた。残りの充電量48%からタブレット端末でメールのチェックや返信などをしてたら過ぎてしまった30分の充電で89%まで回復するなど、急速充電での電気の飲み込みも想像していたより遙かによかった。これはもう立派に実用的、といえるレベルにあると断言していいと思う。

何だかものすごく気に入った……というか、だいぶ欲しい気持ちになっちゃった。

趣味のクルマはゴブジ号、アシの実用車は600e。えらく理想的な組み合わせであるように感じるのは、僕だけだろうか……?

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  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 『Tipo』の編集長を長く務め、スーパーカー雑誌の『ROSSO』やフェラーリ専門誌『Scuderia』の総編集長を歴任した後に独立。クルマとヒトを柱に据え、2011年からフリーランスのライター、エディターとして活動を開始。自動車専門誌、一般誌、Webなどに寄稿するとともに、イベントやラジオ番組などではトークのゲストとして、クルマの楽しさを、ときにマニアックに、ときに解りやすく語る。走らせたことのある車種の多さでは自動車メディア業界でも屈指の存在であり、また欧州を中心とした海外取材の経験も豊富。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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