自分だけのミニカーをゼロからDIY製作したオーナーに直撃
「バックヤードビルダー」という言葉は、文字通り「裏庭で作る人」という意味ですが、この言葉をクルマ趣味界隈で使う場合は「自宅の裏庭で趣味のクルマを作る人」となります。趣味大国として知られる英国を中心に、欧米ではクルマ遊びのいちジャンルとして古くからおなじみですが、今回ご紹介するのは、彼の地のバックヤードビルダーに勝るとも劣らない剛の者です。
日本でも自分の手で自由にクルマを作る趣味人は存在する
2024年9月29日に埼玉県の川島町役場駐車場で開催された「ALL JAPAN minicar MTG(オールジャパン・ミニカー・ミーティング)」は、その名の通り原付四輪車が主役というユニークなイベント。免許不要の特定小型原動機付自転車から普通免許が必要な一般原動機付自転車(ミニカー)、三輪のピアッジョ「アぺ」やトゥクトゥクから、乗車定員が2名となる超小型モビリティまで、初の開催にもかかわらず約100台ものミニカーが会場を埋め尽くした。
原付四輪車といえば光岡自動車やタケオカ自動車工芸の歴代モデル、あるいはトヨタ車体の「コムス」などが思い浮かぶが、規模の大小はさておき、これらはいずれも歴とした自動車メーカーのプロダクト。
「自動車というものは、メーカーが製造しユーザーが購入するもの」というのが多くの人の常識だろう。ひるがえって海外。例えばモータースポーツ好きのコーリン・チャップマン青年が中古のオースチン「セブン」をベースに、裏庭で切ったり貼ったりして仕上げた趣味の手作りマシンがロータスの1号車であることはよく知られる話だが、そもそも車検制度の厳密なわが国ではいちアマチュアが、個人の楽しみのためだけに自分の手でクルマを自由に作るという趣味風土は希薄だ。
では日本のクルマ趣味人のクリエイティビティが欧米にかなわないのかと言えば、もちろんそんなことはない。
オールジャパン・ミニカー・ミーティングで注目の的だった1台のマシン
会場で見かけた1台の原付四輪車。見た目は米軍のFAV(Fast Attack Vehicle)のようでもありロータス セブンのようでもある。じつはこのクルマはこちらの世界ではかなり有名な個体らしく、多くの来場者がひっきりなしにオーナー氏のもとを訪れては話を聞いている。そこでタイミングを見計らって、筆者もお話を伺うことに。
「車名は特にないのですが、強いて言えば“自作ミニカー”です。正確には“自作ミニカー2号機”ですかね」
と話してくれたのはオーナーの“セルフメイド”(=自作)さん。セルフメイドさんが乗っている自作ミニカーということは……。
「見ての通り完全な手作りです。以前、YouTubeで自作ミニカーを作っている人の動画を見て、面白そうだなと思ったのがこの趣味にハマったきっかけ。もともと工場で働いていて溶接や機械いじりの経験はあったので、コロナ禍で行動制限を強いられていた時期にとりあえず1台作ってみました」
>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを1冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)
保安用件を満たしてナンバーも取得
「最初のモデルが結構うまくできたので2台目の制作に取りかかかって、コロナ禍が終わる頃、3年ほど前に完成したのがこの“自作ミニカー2号機”です」
ヘッドライトやウインカーをはじめとする安全保安要件をきちんと満たしていれば、普通乗用車とは異なり原付四輪車は自作のワンオフであっても登録・ナンバー取得は可能。もちろん“セルフメイド”さんはこの自作マシンにナンバーを取得した。
エンジンは1990年代のホンダ「NSR50」の水冷2ストローク50cc。ラジエターやホイールなどにバイクやカート用のパーツを巧みに流用しつつ、チューブラーフレームはオリジナル・デザイン。
「厳密な設計図などはなくて、トライアンドエラーで仕上げました」
というが、製作途中には念入りな試走も行うなど、その走りも仕上がりもかなりのハイクオリティだ。
自作ミニカーで北海道から沖縄まで日本1周
これだけでも「クルマ遊び」としてはなかなかディープで希有な例だと思うのだが、さらに驚くべきは“セルフメイド”さんのずば抜けた行動力。
「SNSやYouTubeなどにもアップしていますけど、2022年から2023年にかけてこのクルマで日本1周しました。北海道から沖縄まで約2万キロ、下道を走って……」
アスリートは自分自身の限界と戦うために競技に参加し、登山家はそこに山があるから登り、コーリン・チャップマンは自身のアイデアの優秀性を証明したくてモータースポーツに参戦し……という話と一緒にしていいものかどうかよくわからないけれど、ともかく自分が作った原付カーで日本1周を成し遂げるとは浮谷東次郎もびっくり。原付四輪車フリークの情熱恐るべし! クルマ趣味もここに極まれり! である。
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>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを1冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)