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96年前のル・マンで優勝したベントレーが東京を走った!「コッパ・ディ東京」に降臨した「オールド・マザー・ガン」とは?

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: AMW 竹内耕太(TAKEUCHI Kota)

ル・マン勝率100%男に初優勝をもたらした「オールド・マザー・ガン」とは?

2007年初頭、わが国を代表するロールス・ロイス/ベントレーのコレクターである涌井清春氏のコレクションに加わったこの「オールド・マザー・ガン」は、世界的視点から見ても同氏のコレクションの代表格ともいうべき1台。1928年ル・マン24時間レースで優勝した、あまりにも有名なワークスカーである。

同じく1929~1930年にル・マン優勝を果たした「6 1/2 Litreスピード6」のワークスカー「オールド・ナンバーワン」について、現存する個体の真贋が少なからず疑問視されていることから、間違いなくオリジナルが証明されている個体としては、涌井氏のオールド・マザー・ガンが、おそらく「世界一有名なW.O.ベントレー」であると断じてしまっても過言ではないだろう。

このクルマは、ベントレーの名作「4 1/2 Litre」の第1号車およびプロトタイプでもあり、1927年6月に、あの「ベントレーボーイズ」のエース、「ル・マン勝率100%男」としても知られるベントレー社会長、ウルフ・バーナート大尉自身の名義で登録された。シャシーナンバーは、4 1/2 Litreの1号車であることを示す「ST3001」。そして新車時の登録ナンバーは、今も変わらず取り付けられている「YH3196」である。

バーナート会長からこの4 1/2 Litre第1号車を託されたクレメント/カリンガム組は、1927年のル・マンで8分46秒というファステストラップを叩き出す素晴らしいペースでレース序盤をリードするものの、35周目の「メゾン・ブランシュ」コーナーにて発生した、トップグループを走る3台のワークス・ベントレーすべてが絡む多重クラッシュに巻き込まれて、リタイヤを余儀なくされてしまう。

しかし、この「ST3001」の命運は、それで終わりというわけではなかった。翌1928年のル・マンにも、前年の事故のダメージを修復して再エントリー。この時点で、ベントレーボーイズのメンバーや、ベントレー・ワークスチームのスタッフたちから「Old Mother Gun(オールド・マザー・ガン)」なる、ちょっと自虐的なニックネームが初めて授けられたこのマシンは、オーナーであるウルフ・バーナート大尉/バーナート・ルービン組のドライブで、みごと総合優勝に輝いた。

また、翌1929年のル・マンでもクレメント/シャサーヌ組に託されて2位入賞を果たしたうえ、1927年の仏モンレリー・サーキットにおける「パリ・グランプリ」でも、レース中に2度にわたる火災事故に見舞われながらも満身創痍の勝利を勝ち取った。さらには「ブルックランズ」サーキットのレースでも複数回の優勝を果たしているという、まさしくW.O.時代のベントレーを代表する個体なのだ。

その後、ブルックランズのスピードトライアルへの参加を目的としたレーシングドライバー、リチャード・マーカーが1932年に購入。ベントレー「8 Litre」用6気筒エンジンを搭載し、流線型の新造ボディを与えられたスペシャルマシンへと大改装された。

この姿で第二次世界大戦の開戦直前までレースを闘うが、中途で事故を起こしシャシーは交換される。いっぽう残されたオリジナルの「ST3001」シャシーは、1940年代から1980年代に至るまで「BDC(ベントレー・ドライバーズ・クラブ)」メンバーのもとを渡り歩いたとされている。

そして前世紀末、あるいは今世紀初頭に「ST3001」シャシーを起こした当時のオーナーにより、1927年ル・マンのスタイルを完全に再現したレストアが施され、2007年2月に日本に輸入。以降は現在に至るまで、涌井清春氏のプライベートコレクションとして所蔵されている。

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