80年代に750台が生産された「サイデスカー」
街を行き交う乗り物にも流行り廃りがあります。例えば最近でいえば街中でよく見かけるようになった電動キックスクーターは免許不要の手軽さから、都市部での簡便な近距離移動手段として急速に普及しています。じつは、かつて1980年代にも似たようなムーブメントがありました。それが「原付カー」の流行です。
オイルショック後に原付カー・ブームが到来した
1973年の石油危機をきっかけに日本はもちろん世界中でクルマ、ひいてはモビリティ全般に対する「省エネ・省スペース」という意識がそれまで以上に強まった。そんな1970年代半ばから1980年代初頭にかけて次々と生まれたのが「原付カー」である。
欧州、とくにフランスではクアドリシクル(Quadricycle)と呼ばれる4輪原付自転車メーカーが数多く存在し、それらの中には市販スポーツカーの売上が落ち込んだF1コンストラクター、リジェなどの本格派もいて、同社はリジェ「JS4」でこの市場に参入している。
そんな時代の趨勢にあって、もちろん日本でも数多くの原付カーが登場。現在では運転に際して普通免許が必要となっている原付4輪車だが、1980年代当時は原付免許で運転OK。車検や車庫証明も不要で簡便なシティ・コミューターとして注目を集めた原付カー市場には、大小さまざまなメーカーが乱立していた。
「日本初の全天候型バイク」としてデビュー
2024年9月29日に埼玉県の川島町役場駐車場で初開催となった(日)、「ALL JAPAN minicar MTG(オールジャパン・ミニカー・ミーティング)」は、その名の通り原付4輪車が主役。免許不要の特定小型原動機付自転車から普通免許が必要な一般原動機付自転車(ミニカー)、3輪のトゥクトゥクから乗車定員が2名となる超小型モビリティまで、約100台もの小さなクルマたちが会場を埋め尽くした。そんなエントラントの中でふと目に止まったのが、ごく初期の原付カーの佇まいを今に伝える1台。こちらの「サイデスカー(Cydes Car)」である。
今から約半世紀前に東京・世田谷に設立された「乗りもの館(のりものや)」。もともとモータースポーツ畑で活動していたスタッフが1973年に立ち上げたファクトリーで、2輪のカスタムなどからその事業を開始し、ホンダ「モンキー」をベースにした「モンキーダビッドソン」などのヒット作で人気を博した。
その乗りもの館が1981年に「日本初の全天候型バイク」というキャッチフレーズとともに発売したのがサイデスカーだ。その成り立ちは1979年から1981年にかけて販売されたホンダの原付バイク「カレン」のコンポーネンツをベースにFRP製のボディをかぶせ、3輪化したもの。折りからの原付カー・ブームもあり、当時750台が生産されたという。
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車体の1/4が畑に埋まっていた状態からレスキュー&レストア
「2年ほど前、クルマつながりの知人から“畑の中にクルマが埋まっているぞ!”と連絡がありまして、さっそく見に行きました。それがこのサイデスカーだったんです」
と、愛車との出会いを話してくれたのはオーナーの“ロンサムカーボーイ”さん。そのハンドルネームからして1980年代のカーオーディオ風だがそれはさておき。
「もともとタイヤのついたものならなんでも好きだったのですが、なかでも旧いシンプルなクルマ、小さいクルマが好きだったので所有者と交渉してこの個体をレスキュー、レストアすることにしました」
発見当時、車体の1/4ほどは地面に埋まっていたそうで、掘り出すだけでもさぞ難儀だったろうと推察。当然、機械部分の多くは錆で動かず、ボディの傷みも進んでいたが、地元のクルマ仲間たちの協力もあり、ついに路上復帰を果たす。
今も現役バリバリの「シティカー」
ユニークなキャビンの造形はかのムーンクラフトの手によるものともいわれるが(同社の公式ウェブサイトには未記載)、レース業界につながりのある乗りもの館ということを考えれば、たしかにその伝にも納得がいく。
じつは“ロンサムカーボーイ”さんは趣味のクルマとして、他にも初代三菱「ミニカ」(LA21)や1997年式のフォルクスワーゲン「ビートル」(いわゆる「メキシコ・ビートル」)も所有しているそうだが、毎日15kmほどの通勤には主にこのサイデスカーを多用しているとのこと。
2輪車ベースの3輪車だからサイドカー? いや、サイドカーではなく日本初の全天候型バイクなのです。なるほどさいですか。というわけでサイデスカー(たぶん)。原付免許で乗れる50km/Lの省エネカーは、誕生から半世紀経った今も現役バリバリの「シティカー」なのである。
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