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発売間近のスバル新型「クロストレック」ストロングハイブリッドはなぜ機械式AWDに? 辛口モータージャーナリストが乗って試して検証します

スバル クロストレック S:HEV プロトタイプ:とくにコーナー立ち上がりなどでのアクセルの踏み込みに対するレスポンスで、従来のe-BOXERを大きく上回る

スバルが新開発のストロングハイブリッド「S:HEV」を市場投入

これまでスバル車というと、「走りにも安全性にも定評あるけど、これで燃費さえ良ければ……」と敬遠するユーザーが少なからず存在したのも事実です。そんな中、2024年10月17日にスバルは新開発のストロングハイブリッド「S:HEV」を発表し、まずは人気のSUV「クロストレック」に搭載して年内に発売予定。そのプロトタイプにモータージャーナリストの斎藤慎輔氏が試乗し、実力を検証していきます。

ボクサーエンジンの泣き所だったのが燃費性能と航続距離

スバルが「インプレッサ」をベースに、内外装にSUVテイストを盛り込んで2010年に発売した「インプレッサXV」は、2012年の2代目では「XV」へ、2022年のモデルチェンジでは「クロストレック」と車名を変えてきたが、すでにインプレッサからの派生車種というものではなく、こちらが中心の基幹車種に育っている。

こうしてスバルは、水平対向エンジンとシンメトリカルAWDを基軸に、新たな市場を開拓しつつ、その変化にうまく対応してきたかにも思える。そういう中において、遅れを感じさせた、あるいはハンディとなっていたのは、何より水平対向エンジンの燃費性能にあったことは、スバルファンはもちろん、クルマ好きの中では広く知られるところだ。

もっとも、これまでインプレッサ、クロストレック、「フォレスター」には、2Lの水平対向4気筒直噴エンジンに、最高出力10kW/最大トルク65Nmという小出力モーターとわずか0.6kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーを備えた「e-BOXER」と呼ぶハイブリッドは設定されていた。ただこれは、発進時および主に加速初期の補助を担うもので、ベースエンジンの燃費性能の素性もあって、期待されたほどの実燃費向上には繋がっていなかった。

むしろスバルらしいのは、駆動力に繊細な制御をもたらすためにモーターを活かしているところが見受けられ、通常域でのドライバビリティだけではなく、低ミュー路などでも発進性や安定性にも寄与していたところは評価できるものだった。

一方で、リア側床下にバッテリーとともにパワーコントロールユニットが収められていたことから、燃料タンクが押しやられる形で小さくされ、インプレッサ、クロストレックともに48L、もっと車体が大きく燃費にも不利なフォレスターでも48Lと、満タンからの航続距離には不満の声が聞かれたものだ。

というところで、ようやく市場投入が公表されたのが、水平対向エンジンに、駆動用と発電用の2モーターを備えたストロング・ハイブリッド、「S:HEV」である。その第1弾をクロストレックに搭載し年内発売予定ということで、富士山の裾野にある夏場のゲレンデにおいて、プロトタイプの試乗の機会が得られたのだった。

ミラーサイクル2.5L自然吸気エンジンを採用するシリーズ・パラレル方式ハイブリッド

S:HEVは、トヨタのTHS(TOYOTA Hybrid System)IIの技術をベースとしたものであり、最近のトヨタもそう呼ぶように、シリーズ・パラレル方式のハイブリッドだ。特徴的な動力分割機構に電気式CVTを組み合わせるのも同様。ちなみに駆動用モーターの最高出力は88kW、最大トルクは270Nmと、これまでのe-BOXERとは比較にならないくらいに強力だ。ただ、駆動用リチウムイオンバッテリー容量は1.1kWhに留まるから、EVとしての走行可能距離にはあまり期待しないほうがよさそうだ。

搭載される水平対向エンジンは専用のミラーサイクル2.5L自然吸気となり、燃費効率の高い領域を広げるとともに、ハイブリッドで問われる高速域や高負荷域での燃費低下には、ゆとりあるトルク性能で対応、エンジン回転も抑えられることで静粛性にも寄与するということだろう。縦置きエンジンに繋がるトランスアクスルには、エンジン後方から発電用モーターとその下側にフロントデフが配され、動力分割機構、駆動用モーター、電子制御カップリングを備えたAWD機構の順で収まっており、スバルならではのシンメトリカルAWDの基本は保たれている。

また、ボンネットを開けて、これまでと違う眺めなのは、パワーコントロールユニットがエンジン上部にドンと載せられていること。これが低重心に寄与してきた水平対向エンジン搭載車にとって、どの程度影響をもたらしているのかは気にならなるところではある。その代わりに、このおかげでリア側フロアのスペースを確保ができて、燃料タンク容量を一気に15L増しの63Lまで拡大できており、従来のe-BOXER搭載のクロストレックに対して2割ほど向上しているという燃費により、満タンからの航続距離は1000km超えを達成と公表されている。

これは想定されるWLTCのモード燃費からの換算だろうが、ここから単純に計算すれば、普通に走って16km/L前後には達するということになる。実力としての航続距離は1000kmよりもっと長いという話だったが、スバルとしては、いわゆる燃費コンシャスとしての仕立てではなく、スバルらしい走りの中でも好燃費を得られるところを目指している、といったニュアンスであった。

スバルがあえて機械式AWDを残した理由とは?

スバルが強調していたのは、ストロングハイブリッドでありながら、AWDの後輪側もモーター駆動ではなく、前後をプロペラシャフトで繋げているという点にもあったが、ここはむしろ車両側の都合もあったと考える。

そもそも車体はプロペラシャフトを通す構成になっているうえに、仮にリアにそれなりのモーター出力を備えたeアクスルを与えるとなれば、逆にスペース的に苦しいことにもなりそうだ。さらに、駆動用バッテリーの容量も増やす必要も生じてくるだろう。

なにより、スバルはBEVのAWDである「ソルテラ」の開発により、モーターによる駆動制御が、期待していたほどには自在にも緻密にもいかず、逆にプロペラシャフトによる駆動の強みを再認識していたこともある。

私自身、以前に同じ雪上のワインディングでソルテラとフォレスターを乗り比べる機会を得た中で、発進時の初期トラクション制御にモーター駆動の優位性は感じた反面、絶対的なトラクションにおいても、また下り坂などでの安定性でもフォレスターに分があると感じたが、こうした点は開発陣も認めていた。ソルテラでは旋回挙動の読みにくさをもたらすことがあったりなど、いまだ多くを、事象が起きた後のフィードバック制御に頼る中では、モーターが駆動制御において全て優位となるものではないのが現実だ。

他社のeアクスルを用いたAWD車において、雪上や氷上では駆動制御やタイミングの不自然さ、モーター出力によっては駆動力自体の不足などを感じることも少なくなかったことなどから考えても、今後、とくにフィードフォワードによる制御技術が進化するまでは、プロペラシャフトを使った機械式AWDは性能面からも残ると思えている。

一方、燃費においては機械的ロスもあって不利となるが、クロストレックのS:HEVでは走行状況に応じ、具体的には直進域、高速道路での速度域までを含む巡航時といった状況において、後輪の駆動を切り離してFWDとする手段を用いている。近年のアウディ・クワトロの一部車種などとも同様の在り方だ。

なお、北米で発表されている次期型フォレスターも、ストロングハイブリッドにプロペラシャフトによる機械式AWDであることからしても、スバルの考え方がみてとれる。

違いが一番わかるのは、やはり絶対的な加速力

試乗はこれまでのe-BOXERとS:HEV(じつはこちらにもe-BOXERのエンブレムが貼られている)の交互試乗比較というかたちで行われた。ちなみに、この時点で比較車となった従来からのe-BOXERモデルは、9月に一部改良を受ける前のものだった。e-BOXERに対して、上級グレードとして追加されことになるというS:HEVとの外観上の差は、径は18インチで変わらないアルミホイールのデザインの違いと、e-BOXERの文字が描かれる長方形状のエンブレムのデザインだけ。どっちがどっち? と見分けがつきにくいのは、一部改良後のモデルを資料で見ても同じだった。

クローズドの敷地内のコース設定は3つ。最初は舗装路面の駐車場において、発進加速及び低速ハンドリング、そして人工的に設けられた突起による乗り越えた際の乗り心地の違いのチェックといったところ。いずれにしても限られた環境下でのごく短い距離のため断片的な印象、評価とはなってしまうが、まず走行感覚においての違いは明白であった。

走り出す前からの違いは、エアコンコンプレッサーが電動式となったことで、走行時における停車でエンジンが停止しても室内冷房が機能すること。炎天下や湿度の高い環境下では、快適性に大きな差をもたらす。

発進からの加速は、ごく浅いアクセル開度で低負荷発進をしてEV走行と、全開加速の2パターンを試すという基本メニューであったが、こうした繰り返して走行する試乗会においては、小容量の駆動用バッテリーはすぐに使い切ってしまうために、日常における現実的なEV走行パターンは再現しにくい。

ステアリングに備わる走行モード切り替えのIとSモードで、デフォルトというべきIを選び、従来のe-BOXERでは静々と発進しても即座にエンジン始動となってしまうのに対して、S:HEVは状況によっては30km/h弱あたりまでモーターのみで加速していけることもあった。その際は、EV走行だから静かなのは当然として、モーター走行からエンジンが始動する際のトルク変動が小さく抑えられているのが好ましい。

違いが一番わかるのは、やはり絶対的な加速力で、初速からアクセルを強く踏み込んだ際の加速Gの立ち上がりの差は歴然としている。モーター出力もエンジン排気量も大きいのだから当然といえば当然だが、逆にいえば日常走行ではより控えめなアクセル開度で走ることができるということになる。

ただ、今回のコースでは、エンジン作動時の電気式CVTによる走行負荷の変化におけるエンジン回転の変化の在り方を詳しく掴めるまでに至らなかった。個人的には、とお伝えしておくが、トヨタ車で知る限り、優秀なハイブリッドと評されるTHS IIにあっても、走りにおける感覚領域の課題のひとつに、電気式CVTがもたらす、走行負荷の変化に対してエンジン回転の変動が曖昧で捉えどころがないことがあると常々思ってきた。

とくに登り勾配が続く際などには、ちょっとした負荷の変化でエンジン回転が上下に変化し、同時にエンジン音も排気音も変化し続けるのは心地良いものではない。このあたりを、長年リニアトロニックと名付けたCVTを採用し続ける中で、2代目「レヴォーグ」からは「CVTの逆襲」とまで謳って、CVT特有の曖昧でフラフラとした連続変速感をなるべく感じさせないような制御や、積極的に擬似多段モードを取り入れてきたスバルだけに、燃費、効率とのせめぎあいの中でどう制御しているのか、気になってはいる。

電子制御カップリングの駆動力制御で素早いレスポンス

次に、道幅が狭く勾配が変化するツイスティな低速ワインディングで、一部に未舗装で土が露出した部分を通過するといったコースを走った。ここでは、約50kgほど増しているという車重の影響、車重増加とパワー向上に合わせたサスペンション領域のチューニング、従来の油圧式から多板クラッチによる電子制御カップリングと組み合わされることになったAWD機構による前後トラクション制御の在り方、さらに私の中では、パワーコントロールユニットがエンジン上部に載せられたことによる重心への影響はどうなのか、などを知りたいところだった。

車重増加に関していえば、動力性能ではモーターとパワーの余力が完全に上回り、軽い登り勾配路でも従来のe-BOXERとの差は歴然だったが、とくにコーナー立ち上がりなどでのアクセルの踏み込みに対するレスポンスで大きく上回る。登りタイトコーナーでは、前内輪側は一瞬空転モードに入りそうになっても、瞬時に後ろから押し出されロスがない。なるほど、電子制御カップリングの駆動力制御の素早いレスポンスが垣間見える。

ステアリングの手応えが少し重めになったと感じるのは、前輪接地荷重が増えたせいなのか、ステアリング制御の見直しによるものなのか、ロアアームブッシュの強化によるものなのか、要因までは知れなかったが、若干のアンダーステア感の増加は、もしかするとフロントまわりの重心高の影響があったのかもしれない。ここは発売後に確認したい点だ。

低ミューのオフロードでも意図した通りに走れる

最後は草地における走行だったが、試乗日は前日の豪雨の後で、かつそれまでの走行により土が掘り返されて、泥濘とまではいかないが、水を多く含んだ土による轍路となっていた。冬場はゲレンデになるのだろう草地をここまで荒らしてしまって文句は言われないのだろうか、と余計な心配までするくらいだったが、まずはスバルAWD車の強みであるたっぷりとした最低地上高は従来通り200mm確保されていることもあり、柔らかい土や草とはいえ床下が着くような状況になるのが稀なのは心強く、不安感なく攻めていける。

さらに言うと、スバルが強調している前側方視界がピラーで遮られる死角が小さいことは、運転席から路面状況を見て的確に通るコースを選ぶ際にも強みであることを実感する。

こういう駆動抵抗が大きく、それでいてミューの低い路面では、まず絶対的に高い駆動力が求められるが、ともすると曲がりにくくなるという問題が発生する。電子制御カップリングの強みはここにあり、適時、前後駆動力配分を制御しているのだろう。アクセルオンのタイミングさえ見誤らなければ、意図しないアンダーステアなどに見舞われることなく、目標ラインをトレースしつつ旋回加速していくようなことも難しくなかった。

クロストレックの最上級グレードとして正式発売は間近

スバルの乗用車タイプのAWDは、もともと走破性でも優れていたが、今回の短い走行の中で知る限り、扱いやすさも増したかも、と思える。モデルライフの中での途中追加ということもあってか、リア側フロア形状の変更などによる荷室容積への多少の影響も見受けられるが、「走りにも安全性にも定評あるし、これで燃費さえ良ければ」といった声が払拭できるとなれば、あとはお値段次第か。

クロストレックは9月に行われた小改良における、2022年の発売時の価格に対しての価格の違いを代表的モデルでみると、装備の充実が図られたスタンダードモデルたる「ツーリング」のFWDで266万2000円(消費税込)から301万4000円(消費税込)へ、上級モデルの「リミテッド」のAWDで328万8900円(消費税込)から344万8500円(消費税込)へと価格は上がっている。それでも、近年の資材、生産、物流など全ての急激なコスト上昇を考慮すれば、抑えられているほうに思える。

これらに対して、S:HEVは、リミテッドより上級のモデルとして2グレードが用意されており、「プレミアムS:HEV」と「プレミアムS:HEV EX」で、いずれもAWDのみとなる。正式発表は12月前半と予想しているが、10月17日よりすでに先行予約を開始しており、リミテッドのAWDに対して35万円高、クロストレックにはこれまで設定のなかったアイサイトXの装着仕様で55万円高という話で、つまり最上級グレードでギリギリ400万円を切るといったところのようだ。走りも燃費も本来の実力が知れるのは発売されてからではあるが、楽しみに待つ甲斐は十分にありそうだ。

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