当時のスペックを完全コンプリートした1台
アイコニック・オークショネアーズ社は、2011年に「シルバーストーン・オークション」として創業。2023年8月に現在の屋号に改組して再スタートを図ったという、自動車オークションビジネス界では比較的新興勢力ともいうべきオークション会社である。
とくに「シルバーストーン」時代からレーシングカー/ラリーカーなどの競技車両のビジネスを積極的に展開してきたようだが、今回のオークションに出品されたグループN仕様ギャランVR-4 RSもそのひとつといえよう。
アジア・ラリー選手権1993年シーズンの閉幕をもってラリーカーとしての現役を引退したのち、グダン・ガラム・ラリーチームのチームマネージャーの妻がドライブするようになり、インドネシアの国内イベントではレディースクラスでたびたび優勝したとの記録が残っている。さらにそののち、現オーナーがラリーカーのコレクションに加えるために買い戻し、「プロテック」社によってメンテナンスサービスを受けつつ、現在に至っているとのことである。
現状では、当時物のオリジナルボディシェル、シーム溶接、オリジナルパネルを装着。ラリーアート製ロールケージも装着する。また、ラリーアートによって組まれたオリジナルRSエンジンに、同じくラリーアート製エキゾーストと競技用「AP」社製クラッチ、オリジナルのRS用ギアボックス、オリジナルの「グループN」仕様RSブレーキとブレーキパッド、ラリーアート仕様のビルシュタイン製ストラット/ショック、ラリーアート製サスペンションアームなどが残されている。
さらに、グループA規約では使用不可だったラリーアート製4WS機構を装備するかたわら、ワークス用ラリーアート「グループA」ホイールにミシュランタイヤを装着。オリジナルのラリーアート製シートとステアリングホイールに、グループN仕様のダッシュパネルも保持されているとのことだった。
ファーストオーナーやドライバーが当時乗ったコンペティションカーがダイレクトに売りに出る機会は非常に稀であり、その特別な出所について安心感を与えるものである。この個体は、主に1人のドライバーによってラリー競技で実際に活躍を見せたメーカーチューン車両で、オリジナルのボディシェル、エンジン、ギアボックスなどを備えた完全なオリジナル仕様。つまり、ラリーアートと三菱のラリーにおけるヘリテージという点から見ても、とても重要な1台と思われる。
それらの点を加味して、アイコニック・オークショネアーズ社はこの往年のラリーマシンについて、4万5000ポンド~5万ポンド(邦貨換算約890万円〜約990万円)という、ギャランVR-4としてはかなり高めのエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが実際の競売では、売り手側が設定した「リザーヴ(最低落札価格)」には届かなかったようで、残念ながらNo Sale(流札)に終わってしまったのである。