弱冠20歳の佐々木藍咲選手がヒストリックカーレースに初挑戦
女性ドライバーによるプロレースシリーズ「KYOJO CUP」で2023年にデビューして活躍中の20歳のレーシングドライバー、佐々木藍咲さん。じつは幼少期に見たヒストリックカーレースが原点となっているそうです。2024年10月13日に開催された秋の「JCCA筑波ミーティング」で、ダットサンSR型「フェアレディ」のハンドルを握ってスプリントレースと耐久レースに挑戦しました。
ダットサンSR型フェアレディでJCCA筑波ミーティングに挑戦
2004年生まれの佐々木藍咲さんは、2023年に女性だけのモータースポーツカテゴリー「KYOJO CUP」でレースデビューした女性ドライバー。2024年4月にはJAF公認のヒストリックカーレース「JCCA筑波ミーティング」前日の練習走行日に憧れのヒストリックレーシングカーを初ドライブしたが、10月13日に行われた秋のJCCA筑波ミーティングでは、「Sレース」と「CRAZY KEN TROPHY 60分耐久」という2つのレースでデビューした。その週末の模様をお届けしたい。
レース前日の土曜日の筑波サーキット、レース本番に向けてサーキットガレージでは各チームとも整備に余念がない。佐々木さんのドライブする予定のマシンは、「ダットサンSP/SRオーナーズクラブ」(以下SPSROC)の所有するダットサンSR型「フェアレディ」のクラブスポーツレーシングで、SPSROCサーキット担当の大村さんと仲間たちの手により整備中だ。
サーキット入りした佐々木さんの姿に、今回のレースをサポートしてくれた静岡工科大学の佐野さんが驚く。レースメカを志す佐野さんはKYOJO CUPでは翁長実希選手&樋渡まい選手のサポートをするレーシングガレージRSSのお手伝いをしているという。じつはドライバーを知らされていなかったらしい。普段はライバルチームの2人だが、今回のJCCAではチームメイトとなった。
そして、整備を終えたSRフェアレディで、まずは大村さんが確認のためコースイン。何も問題がないということで交代し、走り出した佐々木さんは、4年落ちのタイヤで1分8秒台でコンスタントに周回し練習走行を終えた。
「ブレーキングの時にハンドルが右に取られるので、第1ヘアピンはアウトに膨らんでとくに怖かったです。最終コーナーでは内側の芝生に乗るかと思いましたし、前回テスト時の症状がまだ治ってないのかなと思いながら走りました。ただそんな中で大村さんにタイムが負けたのは少し悔しかったです(笑)」
SRを検証するとアッパーアームのボルトに緩みがあるのが判明、シムが悪さをしたようだ。ここは即座に対処し、またタイヤもニュータイヤへと交換し翌日のレースに備えた。
予選でクラス1位、総合4位の好タイムを記録
そして迎えたJCCA筑波ミーティング当日。朝から予選が順次スタートし、佐々木さんの出場するSレースも予選開始となった。
S75-2クラス秋田さんの510「ブルーバード」がダントツの1分4秒965というタイムでポールポジションを獲得。そこから1分9秒台までの間で21台がコンマを争う接戦の中、予選周回11周目で1分6秒438という好タイムを出した佐々木さん。年式の新しいクラスとの混走のなか、年式の古いS68-2クラスで1番、総合でも4番手というポジションをゲットする。SPSROCの大村さん、チームをサポートする元F3ドライバー萩原英明さんも、これはいいねと笑顔を見せる。
「予選ですがじつは思い通りには行きませんでした。3~4周でピットに戻るつもりでしたが、気合いが空回りしちゃって何度もシフトミスを繰り返してしまい、うまくまとめられずに、最後に1周アタックにかけました。その時は自分の思ったものに近い走りができました」
ライバルたちも色めき立つ
JAF公認のJCCAヒストリックカーレースにおいて、予選でクラスポールポジション、総合でも4位というタイムを出したニューフェイスに、パドックの他ドライバーたちも色めき立つ。
「私はSRファンですからね、SRが速いことを証明してくれて嬉しいですよ」
と言いながらも、コンマ4秒差に悔しさを滲ませたのは、総社オート510ブルーバードのドライバー日下恭一郎さん。じつは自身の愛車はSRだという。
また、長年ここ筑波でN1のAE86コースレコードを保持していた、ゼッケン65下平さんもこうコメントしてくれた。
「予選時、前を走っていたのですが、正直どこかで追いつけるだろうなと思っていましたが、あれ? 追いつかな〜い! でした(笑)。VITAでの実績もあるし、きちんと乗れてるドライバーさんですね」
スプリントのSレース決勝、スタートで力みすぎた?
JCCA筑波ミーティングのSレース決勝を控えて、コース上に並んだマシンたち。2列目グリッドに並んだ佐々木さんのSRフェアレディに、レジェンドドライバーの柳田春人さんが
「SRでこのポジションはすごいよ! 速いね」
と声をかける。「Zの柳田」として有名な柳田さんであるが、もともとレースデビューはSRであり、そのレースの優勝からプロの道へと進んでいるのだ。
さて、シグナルが赤になり、ブラックアウトでスタートする全車。一瞬、車体を弾ませたように見えた佐々木さんのSRであったが、どんどん後続車両に追い抜かれていく中、取り残される。
「回転数を6000くらいに合わせようとアクセルを調整しましたが安定せず、そのままブリッピングで調整してクラッチを繋いだ瞬間の感触は良かったのですが、そこからアクセルをガバッと踏んでしまいエンストしてしましました。すぐにエンジンはかかったのですが、焦っていたこともあり、またアクセルを踏み込み過ぎてしまい再度エンストしてしまいました」
じつは2回のエンストをしていたという佐々木さん、3度目のリスタートでようやく無事発進できたという。
赤旗中断は逆襲のチャンス! ところが……
「巻き返して絶対勝つ! 正直(ポジションも)戻れると思っていました(笑)」
すでに最後尾となった佐々木さんであったが、走り出してからはすぐに数台をパス。4周目での赤旗中断も、前車との距離が縮まるのでチャンスと見ていた。
「コース上で再開を待っている間は、何度も前のクルマの台数を数えていました。再開後は何周かわかりませんでしたが、1周に2台は抜いていけばなどシュミレーションはしていました」
コース脇に停まった2台が回収されて再スタートと思われた時に、ポストから再び赤旗が掲示された。並んでいた間に2台のマシンがオーバーヒートしたのだ。そのうち1台はゼッケン38佐々木さんのSRだった。
「何が起きてるか分からず、オフィシャルさんにコースから出してもらっている時に水温計を見たら上限の赤テープを針が越えていて、やってしまった……と理解しました。もしかすると、この後の耐久も終わりにしてしまったか!? と悔しい気持ちでいっぱいになりました」
幸いリザーバータンクから水を噴出しただけでダメージのなかった38号車は、次の耐久レースで無事にグリッドにつくことができた。
「スプリントレースは自分で台無した分、耐久はしっかり勝ちに繋がるレースをしようと思ってました」
トラブルに見舞われた耐久レースは辛くも完走
迎えた「CRAZY KEN TROPHY60分耐久」レースは5番手からのスタート。スプリントとは違いエンストはなかったものの、前車とタイミングが合わせられずに失速気味にスタートしたという佐々木さん。
「前との差が広がる一方かなと思いつつ、やっぱり勝ちたいという気持ちもありましたが、次の大村さんに繋ぐことを考えながら走りました」
1分7秒台で走るなどコンスタントに周回を重ね、無事に大村さんへとステアリングを渡す。順調に周回を重ねていた大村さんに、佐々木さん、チームメイトも笑顔でいたピットであったが、突然のアナウンスに一同驚くことになる。
1コーナーで姿勢を崩した大村さん、スポンジバリアへ右フロントをヒット。いわゆる鬼キャン仕様のようになった38号車SRフェアレディであったが、走行可能と判断しピットへ戻った時は、予定通り佐々木さんへの交代のタイムであった。
「周回しているマシンを見て悔しさはありましたが、まずは無事に回ってきてと見守っていました。ピットで交代する時、最初はまじか! と思いましたが(笑)、自分が走らせてきたマシンでもあるので、最後までもってほしいという願いはありました」
結果、60分耐久レースはクラス13位、総合14位でのチェッカーとなったが、ともあれ完走を果たすことができた佐々木さん&大村さんのSRフェアレディだった。
「キャブ車への理解と知識を広げていきたいです」
佐々木さんにとっては、苦い経験もあった初めてのヒストリックカーレース、感想を最後に聞いてみた。
「小さい頃から見てきたクルマたちと一緒に走りレースができるなんて素直に嬉しいです! SPSROCとのご縁も感謝しかありません。実況の方にも名前を呼んでもらったのも嬉しいです(笑)。キャブ車への理解と知識を広げていきたいです。今回はスタートで全てを失いました。次戦はスタート後のレースをしていきたいです」
次期シーズン開幕となる2025年4月には、それらを克服しているであろう佐々木さんに期待応援しようではないか。
■「令和女子旧車に乗る」連載記事一覧はこちら