30年かけて一帯をきれいに開拓
翌朝、朝食を済ませ、タックルの準備を整えていると、ディックがぼくのサイトの前にクルマを止めた。そして、乗れ、と合図をしている。
「そこからエントリーするんじゃないんですか」目の前の階段を指して言うと、「もっといいポイントがある」という。
ランクルに乗り込んで林の中を進むと、ワラビーがぴょんぴょん跳ねている。こんなにたくさんいるものなのか、と驚くばかりだ。
「30年前にここに来て、きれいに開拓したんだよ」
木陰を作っているマンゴーやバナナなどの木も、ほとんどは彼が植えたものだという。これだけの土地を維持するのは、大変な作業が必要だ。
しばらく走ると、湖というか、沼というか、とにかく水辺に出た。ノーザンテリトリーの乾季に現れるビラボング(三日月湖の一種)だった。
「ずっと昔は川の一部だったんだ」
ボートの用意をしながら、ディックが説明してくれる。
静かな水面にキャストをする。彼のアドバイスでディープダイバーを投げるが、すぐに藻に絡んでしまう。ポッパーに変えて誘うが、魚は反応しない。
その後、トローリングに切り替えて2時間ほど釣りをしたが、一度もヒットはなかった。
3泊で満喫した釣果ははたして……?
キャンプ場の釣り人は忙しい。散歩をして、朝食を食べて、釣りをして、昼飯を食べて、皿を洗い、洗濯をして、プールに入って、ビールを飲み、夕方、また釣りをして、夕食の準備をする。あっという間に1日が終わってしまう。
気がつくと、ペリーズ(Perry’s)に3泊もしてしまった。ダリー・リバーにも出たが、魚は1尾も釣れない。いや、伝説のガイドがロング・トムというダツのチビを1尾釣っただけだった。これなら釣らないほうがマシなような気もするが……。
隣のサイトに滞在するヴァーンとクリスティーンのカップルとも仲良くなった。
「どこに住んでいるんですか」と聞くと、「道の上さ(Live on the road)」。家は売ってしまった。キャンピングカーで暮らすようになって、もう4年になるという。ペリーズにも、あと1カ月以上、滞在するというからスケールが違う。
ちなみにビールの保冷ホルダーがオールブラックスだったので、「なんで?」と聞くと、「私たちはキウイ(Kiwi:ニュージーランド人)だよ」と笑った。
もっとここにいたいが、行かなくてはならない。
キャロルに精算を頼むと、「3泊よね? それから、釣りが3回、洗濯が1回、ルアーが2個、フローズンマンゴーがひとつ……」と電卓を睨んで計算をしていたが、「300ドルね」とやけにキリのいい数字だった。
また、来年、ここに来たい! 伝説のガイドと、今度こそ大物を釣りたい!
ぼくは心の底から、そう思った。
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