笑ってしまうほどに運転が愉しい!
ディーゼルエンジンのアイドリングは非常に安定しているが、キャビン内は轟音に満たされている。そして、意外なくらいに軽いクラッチを踏み込み、複雑な方向に曲げられたシフトレバーを握る。
ウニモグ 406系のトランスミッションは前進6速ながら、1-2速は局地用の「スーパーロー」。通常の道路では3速から6速までを使用する。また前進/後退は別のレバーでセレクトし、リバースは1-2速のみに適用されるという。
また、前後・左右ともにどの位置が何速であるかが分かりづらいものの、「しばらく乗っていれば慣れますよ(笑)」とのこと。そこで、まずは探り探り3速に入れて、助手席の湯浅さんから教えられたとおりアイドリングのままクラッチをつないでみると、3tを超える巨体はあっけないほどスムーズに走り出す。
この時代のウニモグ406はコンスタントメッシュ式変速機だそうで、普通のシンクロつきのような荒っぽい操作は受け付けてくれない。だから、実質的なローである3速から4-5-6速への変速は、すべて丁寧にダブルクラッチを踏む必要があるものの、扱いにくさなどはみじんも感じられない。
巨大なステアリングホイールを回して旋回に挑むと、1973年以降は標準化されたというパワーステアリングのおかげか、操舵力は予想していたよりもはるかに軽い。また、元来が外部動力を駆動するトラクターであることから、ハンドリングは当然スローかと思えば、決してそんなことはない。
自動車としての出自からして、旋回性能の高さなどまったく期待してはいなかったのに、2380mm、すなわち日本の軽自動車とほとんど変わらないほどに短いホイールベースも相まってだろうが、驚くほどクイックに向きを変える。広大な駐車場での試乗で3-4速だけでの走行ゆえに、スピードはせいぜい30km/h程度ではある。ところが、こんな真面目な目的でつくられたクルマに対する評価としては不適切かもしれないが、とにかく笑ってしまうほどに運転が愉しいのだ。
出自は作業用車でもメルセデスはメルセデス
そして、予想外なことばかりのウニモグにも少し慣れてくると分かってきたのは、各操作系や内外装が非常にしっかりしていること。ステアリングホイールやシフトレバー、あるいはペダル類に至るまで剛性感のあるタッチで、組みつけ精度の高さを感じさせる。
また、内装に豪華さを演出する装備などは一切ないものの、簡素なシートの作りは非常に良く、疲れは最小限に抑えられそうだった。たとえ作業用車のウニモグであっても、メルセデスはメルセデス……、と思い知らされたのである。
ちなみに、降車のプロセスは乗車時以上に難儀で、上手く降りないと地面で足を捻挫してしまいそうになる。そこで、まずはステップに左足のつま先を乗せつつ、全身をよじって後ろ向きになり、なんとか無事に地上に降り立つことができた。やっぱりウニモグは、ひと筋縄ではいかないようだ。
このウニモグを辛うじて走らせる機会を得た今、シビアな現場で使いこなしていた先人たちには、尊敬の想いを禁じえないのである。
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