水素がなくなってもプラグイン化することで心配が薄れる
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは、先日発表された「日本カー・オブ・ザ・イヤー」です。なかでも木下氏が注目したのは、2024-2025 テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したホンダ「CR-V e:FCEV」。水素を充填して走るFCEVに、手軽にあつかえるAC充電器昨日をプラスしたSUVです。
燃料電池に積極的なホンダ
ホンダが開発したプラグイン燃料電池車「CR-V e:FCEV」が、2024-2025 テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーに輝きましたね。不肖・木下隆之も選考委員を拝命しているのですが、国内の自動車に精通した専門家による投票により、その卓越した技術が高く評価されたわけです。僕もその技術を高く評価しています。
FCEVは、水素ステーションで充填した水素を大気中に存在する酸素と化学反応させ、水と電気を取り出します。その電気を駆動力として活用し、電気モーターでEV走行するものです。水は無害ですから路面に滴り落とします。
ちなみに、既存の内燃機関の燃料をガソリンから水素に置き換えて走るモデルとは似て非なるものである点を確認しておきたいですね。FCEVは内燃機関をもちません。駆動は電気モーターだけです。いわば、発電所を搭載したEVという言いかたもできるかもしれませんね。
燃料電池に積極的な日本メーカーは2社。トヨタは「MIRAI(ミライ)」で実現させています。一方のホンダは1998年に「FCX プロトタイプ」を発表、2002年には世界初の「FCX」を日米同時発売しています。2008年には、セダン型の「FCX クラリティ」としてリース販売し、2016年には「クラリティ フューエルセル」も発売されていたことから、その名を記憶している方もいるでしょう。ホンダの燃料電池車は、すでに26年の歴史があるのです。
自宅の普通充電からも供給可能!
今回ホンダが開発した「CR-V e:FCEV」の特徴は、プラグインを可能にしたことです。水素で燃料発電するだけではなく、外部から給電できるのです。ここがポイントです。
BEVやプラグインハイブリッドのように、サービスエリアや自動車ディーラーに設置されている急速充電から電力を得ることも可能ですし、自宅の普通充電からも供給可能な点がエポックなのです。
クラリティやミライは、究極の環境車としてもてはやされていますが、一般家庭にはほとんど普及していません。普及を阻む最大のネックは、水素ステーションが充実していないからです。近所に水素ステーションがある方は稀ですね。これではどこで燃料を補給していいのかわかりません。それでは普及するはずもありませんよね。
運行ルートが決まっている路線バスや、公官庁の送迎車などで普及が止まっているのがその証拠です。一般家庭に普及するにはインフラの充実を待つ必要があるのです。
FCEVの欠点は燃料補給の困難さにあると紹介しましたが、プラグイン化することでその心配が薄れます。一般的なBEVやプラグインハイブリッドのように日常的にはプラグインで活動をし、それでも電力が不足した場合のみに水素発電の力を借りて航続することが可能なのです。
フル満タンに充填し節約しながら走行すれば、仮に水素ステーションが近隣になかったとしても、生活できそうです。頻繁に長距離移動するのであれば別ですが、通勤通学がメインであれば現実的のような気がしますね。
幸いなことに水素は地球上でもっとも軽い気体ですから、満充填したまま走行しても、重量的なデメリットはありません。内燃機関を搭載するプラグインのように、けっして軽くはない燃料を積んだままEV走行するような不経済もないのです。その点でも理想的だとも言えますね。
その意味で「CR-V e:FCEV」は、燃料電池車普及の起爆剤になるのではないかと期待しています。