WRC史上に輝く異形のモンスター
昨今のヤングタイマー・クラシック人気を牽引しているのが、1980年代中盤に作られたFIA「グループB」ラリーカーのホモロゲートモデルであることは間違いないところです。英国「ボナムズ」社が2024年9月に英国チチェスター近郊で開催したオークション「Goodwood Revival Collectors’ Motor Cars and Automobilia 2024」から、今回は、アウディの生み出したグループB時代屈指の怪物「スポーツクワトロ」を紹介します。
高性能4WDのパイオニア、WRCの変革者
4輪駆動を乗用車の主流へと押し上げたアウディ「クワトロ」は、この半世紀における自動車業界において、もっとも影響力のあるテクノロジーのひとつを提唱したといえよう。
1980年に発表されたクワトロは、外見的にはよく似たクーペの実用的でスタイリッシュな3ドアハッチバックボディをベースとしていたが、4WDのドライブトレインと独立式リアサスペンションを搭載するために、異なるフロアパンを採用していた。エンジンは、「アウディ200」で初めて搭載された2.1L・直列5気筒SOHC・10バルブユニットを発展させたもので、KKK社製ターボチャージャーを装備し、最高出力200psを発生した。
アウディがフォルクスワーゲン軍用車「イルティス」の4輪駆動システムを新型高性能クーペに組み込んだ背景には、国際的なグループBラリーにおける成功への願望があった。この役割において、クワトロは1982年と1984年シーズンのWRC選手権におけるアウディのマニュファクチャラーズ選手権を、1983年のハンヌ・ミッコラと1984年のスティグ・ブロムクヴィストにドライバーズ選手権を獲得させるという目覚ましい成績を収めたが、その永続的なヘリテージは乗用車におけるAWDの優位性を実証したことであった。
オリジナルのクワトロで大成功を収めたアウディは、「ホモロゲーションスペシャル」というかたちで、より特化したラリーカー「スポーツクワトロ」を開発する。
スーパーカー並のパフォーマンスを誇った
小型・軽量化はスポーツクワトロの開発におけるエンジニア陣の主な目標のひとつ。もうひとつはさらなるパワーアップだった。そこで新設計のDOHC・20バルブのシリンダーヘッドが与えられた2133ccの合金ブロックエンジンを搭載。ターボチャージャーの大径化も併せて行い、最高出力は300psに向上した。
この新しいパワープラントは、ホイールベースを30cmも短縮したシャシーに搭載され、フェンダーやルーフ、フロントエプロンにケブラー樹脂を使用することで、さらなる軽量化が図られた。また、ABSブレーキが初めてクワトロに搭載されたのも特筆に値する。
ロードトリムであっても300psを超えるパワーを発揮したスポーツクワトロは、最高速度160mph(約256km/h)、0-60mph(約96km/h)加速4.8秒という当時のスーパーカー並みのパフォーマンスを誇った。
エリック・ダイモック著の『アウディ・ファイル』によると、総計214台が製造されたうち164台が顧客に販売され、20台がモータースポーツ部門でGr.B競技車「エヴォリューション」に改造された。残りは、実験車両としてファクトリーに残されたとのことである。