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2台しか作られなかったメルセデス・ベンツ「600クーペ」って知っていますか? 関係者へのプレゼント用に作られたモデルの正体とは【クルマ昔噺】

メルセデス・ベンツ 600クーペ:基本的にAピラーまではショートホイールベース版の600と共通となっている

2台しかない激レアモデル

モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る昔話を今に伝える連載。若い時、ドイツ(当時は東西分断で西ドイツ)に留学していた中村氏がメルセデス・ベンツ本社を訪問した際に見かけた「600クーペ」を振り返ってもらいます。

600は正式に作られたのは3バージョン

期せずしてメルセデスの話が続いてしまった。メルセデスの本社には何度か訪れたことがあって、それがいつだったか記憶には無いのだが、何かの試乗会の折、社内のオフィスに向かって廊下を歩いている最中に、その写真を見つけた。そんなクルマは今まで見たこともなかったので、当時広報部長をされていたKさんに、そのクルマの詳しい情報が欲しいと申し出たのだが、どうやらそれはメルセデスも持っていなかったようで、残念ながらその時は貰うことができなかった。後年何らかの形で写真を手に入れたので紹介しようと思う。

その名をメルセデス・ベンツ「600クーペ」。正直なところ正式な名称ではないだろう。なぜなら、このクルマは実際に生産されたわけではないからだ。でもその堂々たる姿かたちに当時、釘付けになったものである。非常に数少ない情報をもとにお話しすると、このクルマは車名からもわかるように、メルセデス・ベンツ「600」のクーペ版である。コードネーム「W100」と称したオリジナルのクルマは、全長が5540mmのショートモデル(!)と、全長が6240mmの「プルマン」と名付けられたロングホイールベース版の2種に加え、その長い方の後席ルーフを切り取り、オープン化した「ランドー」の3種が正式に作られたモデルである。

じつはこのほかにショートホイールベース版のランドーが1台と、今回紹介する「クーペ」が2台作られた。

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クーペモデルはフロントドアを大型化

W100が誕生したのは1963年のこと。そのサイズ感から言っても、ライバルとなるのがロールス・ロイスやベントレーであることは明白であった。ただ、1981年までの18年間にわたり生産されたものの、その総数は3000台にも満たず、おおよそ2700台前後のようである(調べによって台数が異なる)。その当時ロールス・ロイスなどは年間で3000台ほどを生産していたそうだから、要は10%にも満たず、商業的には失敗と言われても仕方がなかった。ただ、各国の国家元首もオーナーに名を連ね、また有名な俳優やミュージシャンなどもこぞって購入していたから、ブランド価値の向上には貢献していたと言えよう。

さて、2台生産されたと言われるクーペモデルである。基本的にAピラーまではショートホイールベース版のモデルと共通で、後席へのアクセスを容易にするために、フロントドアを大型化。さらにクーペ用としてサイドウインドウを新規に作り出した。リアウインドウおよび他のボディパネル(リア部分)は、再びオリジナルの600と共有していた。ホイールベースはショート版の600に対して220mm短縮されていた。

メルセデスに貢献した2人にプレゼントした

エンジンを含むメカニカルトレインも共通で、「M100」というコードを持つ6.3L V8でボッシュ製のメカニカルインジェクションを備えたものである。パワーは大したことはなく250ps。それでも、トップスピードは2.5tもある車重をものともせず、204km/hを記録したそうだ。

ではこの2台、いったい何のために作られたのか? 2台のうち1台は長年メルセデスに貢献をし、1965年に退任したエンジニア、フリッツ・ナリンガーにプレゼントとして贈られたものだという。ナリンガーは600の開発でも主要な働きをした人物である。

そしてもう1台だが、同じくメルセデスに多大な貢献をしたルドルフ・ウーレンハウトにプレゼントされたという話もあるが、一方で彼は生涯自分のクルマを所有したことがないという話もあって、あまりにも有名な「300 SLR ウーレンハウトクーペ」も彼本人のクルマではなく、いわゆるメルセデスの社用車。彼はそのクルマを操って、シュトゥットガルト〜ミュンヘン間をわずか1時間で駆け抜けたという逸話がある。

というわけで、もう1台のW100クーペはもっぱら社内のテスト用に供されたというのが正しいようだ。ちなみにこのクルマは、ミニカーとしては存在し、それらの多くは「ナリンガー・クーペ」と呼ばれている。残念ながら今に至るまで、現物は見たことがない。そもそも現存するのかどうかもわからないクルマであるが、スクラップにされたという記述もどこにもないのである。

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