リフレッシュから間もないV12ヴァンキッシュに、900万円以下はリーズナブル?
現在のオーナーは、2022年4月24日にボナムズ「On The Market」オークションにおいて、このV12ヴァンキッシュを落札・入手した。ヴァンキッシュは前オーナーの勤務する会社が新車として法人所有していたもので、定年退職を機に前オーナーに贈られたという。
ところが前オーナーに老いが忍び寄る中、このアストンは2014年に公道から退役とされ、そのまま保管されることに。そこでヴァンキッシュを新たな持ち主へと譲るために、費用を惜しまない再ミッションが2022年に開始された。
このV12ヴァンキッシュを手に入れた現オーナーは、走行距離3万7831マイル(約6万500km)の時点で、グッドウッドサーキットにほど近いチチェスターにある「ハーウッズ・アストンマーティン」社に持ち込んで検査を受けるべく、オイルおよびフィルターの交換やクライメートコントロールのフロンガス再充填、フロントのロアアーム/アッパーアームとブッシュの交換、リアのアッパーアーム交換、両フロントトラックロッドエンドの交換、オフサイドリアトラックロッドの交換、リアドロップリンクの交換、ラジエターホース交換、そして新品の「ヨコハマ」タイヤに4本とも交換するなど、路上復帰に必要なメンテナンス作業を施した。
メカニカルコンディションは新車時のレベルまで回復
この1万922ポンドを投入したハーウッズ社による基本的な作業が完了したのち、さらに現オーナーはこの愛車を、アストンマーティンのスペシャリストとして高く評価されている「ヴァンテージ・エンジニアリング」に持ち込むこととする。
ここでは車両の詳細なアセスメントを行うとともに、機械的なオーバーホールを実施することにより、肝心のメカニカルコンディションを新車時のレベルまで回復させ、最高のパフォーマンスでドライブを楽しめるレベルまで持ってくることにした。
ヴァンテージ・エンジニアリングが実施した作業は、このモデル生来の運転する喜びを確実なものとするために、パドル式シーケンシャルギアボックスのリビルドや、ツインプレート式クラッチを新品に換装したほか、ステンレススチール製エキゾーストシステムや高性能フローティング式ブレーキディスクも新品に換装するなど、広範囲かつ集中的に行われた。
また、トランスアクスルのクラッチとエキゾースト一式を車両から取り外している間に、フロア裏側にアンダーシールも施された。これら一連の作業には2万1287ポンドが費やされたというが、スペシャリストたちによるケアの結果、このアストンマーティン V12ヴァンキッシュ SDPは、現在入手可能な中で最高のドライビングとハンドリングを実現したとのことである。
ボナムズ社の営業部門は今回のオークション出品にあたって「長距離の高速ツーリングでは、このクルマに勝るものはないだろう」と自信たっぷりに謳いあげるとともに、4万5000ポンド~6万5000ポンド(邦貨換算約864万円〜1248万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定した。そしてこの読みは正しかったようで、実際の競売ではエスティメートに範囲に収まる4万7150ポンド、現在のレートで日本円に換算すれば、約905万円で落札されることになったのだ。
このハンマープライスは、手入れの行き届いたV12ヴァンキッシュとしては比較的リーズナブルなもの。ヴァンキッシュの相場価格については、これから幾たびかの浮き沈みはあるだろうが、ジリジリと高騰してゆく可能性が高いとみられていることを勘案すると、今回の落札者は良い買い物をしたのかもしれない。