ピニンファリーナがデザインしたカマルグを紹介
ロールス・ロイスは創業120周年を迎える2024年、ブランドを語るうえで重要な人物やモデルにフォーカスして紹介しています。今回紹介するのは1975年に登場した「カマルグ」です。このモデルはピニンファリーナによってデザインされ、12年間にわずか529台しか生産されませんでした。この希少なモデルの歴史を紐解きましょう。
チーフ・スタイリストのパオロ・マルティンが手がける
1966年、ロールス・ロイスは社内コーチビルダーであるマリナー・パークウォードに「シルバーシャドウ」の2ドアサルーンを製作させた。同社は1969年までに後継モデルについて考えはじめ、経営陣は既存のラインナップとは劇的に異なる新しいデザインが必要だと感じていた。
同年10月、マリナー・パークウォードによるサルーンがピニンファリーナのトリノ本社に送られた。ピニンファリーナは、まずクルマを解体し、床部分を新しいモデルの基礎として使用した。この新しいデザインは、インペリアル(ヤード・ポンド法)ではなくメートル法で設計された初めてのロールス・ロイスとして、歴史的な転換点となっている。
セルジオ・ピニンファリーナは、このプロジェクトをチーフ・スタイリストのパオロ・マルティンに任せた。マルティンとそのチームは、「エレガンスと洗練という伝統的なロースル・ロイスの特徴を維持しながら、ドライバーのためのモダンでスタイリッシュな自動車」を創り出すという課題に取り組んだ。
主なスタイリングの特徴は、シャープなエッジの面を持つロングラインシェイプで、ラジエターのクラシックな形状とよくマッチしている。シルバーシャドウと比較して全高を低く、そして全幅を大きくし、ロースル・ロイスでは初めて曲面状のサイドウインドウが採用された。
洗練されたパルテオン・グリルを採用
ピニンファリーナは、ロールス・ロイスのデザイナーと緊密に協力して作業を行い、「クロムメッキの装飾ではなく、パネルの入念な成形により、軽さと細身の印象を実現した」と最終デザインを完成させた。外装のトリムとライトユニットはシンプルなデザインで、大きさも控えめである。インテリアのコンセプトは非常にモダンで、航空機の操縦席のように機能的であり、いくつかの高精度の計器が装備されている。
スイッチやコントロール類はモダンなデザインと機能性を確立し、従来通りの形状を維持しながらも、大胆にも上端を4度前方に傾けた「パルテオン・グリル」を採用した。これはこのモデルの最も特徴的で、視覚的象徴のひとつとなった。
マリナー・パークウォードにとって、この新型モデルは極めて重要な挑戦であった。1971年に自動車部門と航空宇宙部門に分割されて以来、初めての完全な新型量産モデルであり、その能力を証明したいという意欲があったからである。最初のプロトタイプは「デルタ」というコードネームが付けられ、1972年7月には路上走行を開始し、約3年間の開発期間を経て、新型車は1975年3月に発表された。
2つの候補名「コリンシアン」と「カマルグ」から、後者が選ばれた。兄弟車の「コーニッシュ」と同様、カマルグの名称は、1917年から1933年に死去するまでサー・ヘンリー・ロイスが毎年越冬していた南フランスとの長年にわたるつながりに由来している。
カマルグは、地中海とローヌ川の2つの三角州の間に広がる広大な海岸平野であり、アルル市の南に位置する。1888年には、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホとポール・ゴーギャンがアトリエを構えた場所である。この地域は、大きな塩水湖で構成されており、鳥類の生息地として国際的に知られている。