航空機のコクピットをコンセプトに設計
シチリア島のカターニアで開催されたカマルグのプレス発表会のために、ロースル・ロイスはミスルトー・グリーンに塗装されたシャシーナンバー「JRH16648」を含む9台の自動車を製作した。パンフレットによると、カマルグのデザインには「2ドア車では通常得られないような乗降のしやすさを実現する」幅広のドアを採用し、「ボタンを押すだけで前部座席の背もたれが電動でロック解除され、抜群の快適性と広々とした後部座席にアクセスでき、視界も良好」と記されている。
インテリアは新素材の超ソフトレザー「ヌエラ」が初めて使用された。ピニンファリーナの「航空機のコクピット」のコンセプトに従い、ダッシュボードにはマットブラックの四角い枠に囲まれたスイッチ類と丸い計器盤が配置され、航空機のようなスマートな外観を実現した。プリーツ加工のルーフライニングと、シルバーシャドウよりも低い位置に設置されたシートにより、頭上空間は広々としており、2ドアクーペとしては後部座席の足元のスペースも広かった。またロースル・ロイスの自動車に初めて2階層式エアコンが搭載された。
価格はシルバーシャドウの2倍
パワーは3速オートマチック・トランスミッション付きの6.75Lアルミニウム製V8エンジンが搭載され、完全独立懸架式サスペンションと車高制御装置を搭載したシャシーにより、パフォーマンス、安全性、快適性が大幅に向上。シルバーシャドウのほぼ2倍の価格になっていた。
カマルグは安全基準を満たすことを当初から目的として設計された初のロールス・ロイスであり、衝突変形に対する耐久性、エネルギー吸収性の高い内装素材、4つの座席すべてにシートベルトが装備されていた。車体自体も非常に頑丈で、アメリカの側面衝突、後面衝突、ルーフ衝突、時速30マイル(約48km/h)での正面衝突の安全試験がすべて実施され、安全基準を合格した。
最初の3年間はロンドン北部のマリナー・パークウォード工場で製造されていたが、1978年にはクルーのロースル・ロイス工場に移り、1987年まで生産が続けられた。全販売台数の約75%が米国を占めたが12年間にわずか529台しか生産されなかったカマルグは、その希少性から現在ではコレクターの間で人気の高いクルマとなっている。
AMWノミカタ
カマルグは、一見してこれまでの保守的で重厚なロールス・ロイスとは異なるスポーティで軽やかな印象を与えるモデルである。チャイニーズアイやこのモデルをデザイン的には異端と捉える人もいるだろうが、カマルグは技術、性能、快適性の面で前任モデルを継続的に改良するというブランドの長年の伝統を守り続けた。
また安全性を考慮してゼロから設計された初のロールス・ロイスとなる点、また生産台数こそ少ないものの、輸出において大きな成功を収めた点においても、ロールス・ロイスの近代化の証として歴史を変えた1台と言えるのではないだろうか。中古車市場ではまだそれほど注目を浴びているモデルではないが、今後その価値が見直されるモデルになるのではと感じる。