数多くの名場面に使われた浅草
映画評論家・永田よしのりがガイドする、気になる映画のロケ地探訪。連載3回目として今回訪れたのは東京・浅草。2023年のカンヌ映画祭で役所広司が男優賞を受賞した『PERFECT DAYS』や小松菜奈主演の『余命10年』、名作『異人たちとの夏』などでロケされた現場を巡ってきました。
ディープな地下街からスタート
浅草、といえば誰でもまず向かうのが、雷門通りに面した大きな赤提灯の下がった雷門から仲見世通り〜浅草寺へと向かう、まさに浅草の玄関口とも呼べる場所だろう。インバウンド観光客もまず間違いなくここで記念写真を撮影しているはず。そんな浅草の玄関口とも呼べる場所だが、じつはすぐ脇からディープな地下街が広がっているのだ。一見さんだとなかなか足を踏み入れない敷居の高い場所かもしれないが、実はそんな場所にこそ、下町浅草の昔ながらの姿が残っていたりする。
『PERFECT DAYS』で平山が行きつけの浅草やきそば店
銀座線・浅草駅から直結した地下5番出口。そこを出るとすぐの場所に浅草地下商店街があり、カツオだしの匂いが鼻をくすぐる立ち食いそばうどんの「文殊(もんじゅ)」の脇を抜けるとすぐに見えてくるのが、浅草やきそばの「福ちゃん」。ここでロケされたのが、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされ、第76回カンヌ映画祭では主演の役所広司が男優賞を受賞したヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』だ。
主人公の平山が常連として通うのが、「福ちゃん」。公衆トイレの清掃人として働き、東京スカイツリーの近くにひとりで住む平山が、仕事終わりに通路側の席に座りチューハイを1杯、ときに焼きそばを食べる店だ。最近は人気の店なので常に席待ちの人たちが並んでいるが、時間帯がうまく合えばすぐに座れるので、平山が座っていた席を確保することも可能。
平山になったつもりで1杯やるのもいいだろう。この地下街には飲食店のほかに中古ビデオ店や占い店など、なかなかにマニアックな店がいまだ健在。ロケ場所以外でも今風に表現されるエモい場所が目白押しだ。
『異人たちとの夏』の主人公が生まれ育った浅草
浅草地下商店街からを階段を上って地上に出れば、そこは浅草界隈の商店街。浅草寺に向かう仲見世商店街や伝法院通り。この近辺では大林宣彦監督の『異人たちとの夏』(2003年にイギリスでリメイクされている)や、最近では『浅草キッド』などで登場人物たちが歩く姿が撮影されている。
近辺の撮影場所としてはアナログな遊園地「浅草花やしき」、芸人たちの聖地「浅草演芸ホール」。地元民たちの憩いの場所、千束通りや浅草六区など、あちこちがまさに映画ロケ地域となっている。近辺をブラブラしながら、自分の思い浮かぶ浅草ロケされた映画の登場人物気分になって散策することができる。