第3世代に進化したフォルクスワーゲン新型ティグアン eTSI Rラインに試乗
今や全世界で百花繚乱の様相を呈しているSUVカテゴリーでは、セグメントCハッチバック車をベースとする、いわゆる「コンパクトSUV」も大盛況。日本勢やヨーロッパ勢、さらにはアメリカ勢も参入し、数々の人気モデルがマーケットでしのぎを削っています。そんな中で最も人気の高いモデルのひとつが、フォルクスワーゲン「ゴルフ」と基本を一にするSUV「ティグアン」。2007年に初代モデルがデビュー、2016年に2代目に移行した後には全世界で通算760万台以上が販売され、2019年以降はVWグループ全体の最量販モデルに君臨しているといいます。そして、日本でも大きなヒットを得ているティグアンの世代交代は、当然ながら注目すべきトピック。2024年11月下旬の正式リリースの後にテストドライブの機会が得られたので、さっそくレポートしていきます。
キープコンセプトながら新機軸を満載
フォルクスワーゲン「ティグアン」は、このほどデビューした新型で第3世代を迎えたが、基本的には先代までのコンセプトを遵守しつつ、ブラッシュアップさせたものといえよう。
新型のボディサイズは全長4545mm×全幅1840mm×全高1655mm(Rラインは全長4540mm全幅1860mm×全高1655mm)で、ホイールベースは2680mm。先代モデルよりも全長が30mm延びた一方で全高は25mm縮小。全幅は不変ということになる。
先代よりも丸みを帯びたエクステリアは、ボンネットの位置を高めることでSUVらしい力強さを強調するとともに空力性能を追求し、Cd値は0.33から0.28へと向上したとのことである。
プラットフォームは従来の「MQB」から、その進化版たる「MQB evo」へと移行。その恩恵によってアダプティブシャシーコントロールの「DCC」が「DCC Pro」へと進化を果たしたことにより、ダイナミックな走りと快適な乗り心地をこれまでにないレベルで両立したと謳われている。
また、このDCC Proを電子制御デフロックの「XDS」と協調制御する「ビークルダイナミクスマネージャー」も新規採用。VW車としては初採用となるこのテクノロジーによって、先代ティグアンでも獲得していた正確なステアリングレスポンスが、さらに高次元に達したという。
さらに、マトリクスヘッドライトの「IQ. LIGHT」が、片側1万9200個の高精細なマルチピクセルLEDを搭載した最新のヘッドライトシステム「IQ. LIGHT HD」に進化したほか、インフォテインメントシステムは最新世代の「MIB 4」に刷新するなど、先進装備がふんだんに盛り込まれたのも特徴といえよう。
パワートレインはガソリンエンジンの「eTSI」とディーゼルエンジンの「TDI」の2タイプ。前者は1.5L 4気筒ターボの「EA211 evo2」ユニット(最高出力150ps/最大トルク250Nm)で、2気筒を休止する「アクティブシリンダーマネジメント」機構と、すでに「ゴルフ8」には導入済みの48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載。7速DCTを介して前輪を駆動する。
いっぽう、ディーゼルエンジンは2L 4気筒ターボの「EA288 evo」ユニットで、こちらは193psの最高出力と400Nmの最大トルクを発生。また、尿素SCRを2基搭載することによって窒素酸化物の排出量を従来型以上に削減する「ツインドージングシステム」を搭載し、7速DCTとフルタイム4WDシステム「4MOTION」と組み合わされる。
WLTCモードの燃費については、eTSIガソリン+FWDモデルが15.6km/Lで、TDIディーゼル+4MOTIONモデルが15.1km/Lと公表されている。
ちょっとスポーティ過ぎ? ディーゼル4駆版にも期待
日本市場向けの新型ティグアンは、エントリーグレードながら同一車線内全車速運転支援システム「トラベルアシスト」やレーンチェンジアシストシステム「サイドアシストプラス」などを標準装備する「アクティブ」と、IQ. LIGHT HDや運転席&助手席のマッサージ機能などを搭載した「エレガンス」、さらに専用のエクステリアやスポーティなシート、20インチアルミホイールなどを装備する「Rライン」の全3タイプで、ガソリン車とディーゼル車のそれぞれにラインナップされる。
今回試乗した新型ティグアンは、eTSIガソリン+前輪駆動のRライン。イメージカラーである「パーシモンレッドメタリック」をまとった姿は、先代に比べると明らかに押し出しが強い。また、キリッとした直線基調のデザインだった先代に対して、この3代目はより有機的。曲線と張りのある面を強調したという点では初代ティグアンを連想させながらも、とくにウインドウ周辺ではフラッシュ・サーフェス化が進められ、よりスタイリッシュな印象も受ける。
ところで、今回のテストドライブを前にして筆者がもっとも興味を抱いていたのは、「DCC Pro」へと進化したアダプティブシャシーコントロール。伸び側と縮み側のダンパーにそれぞれ独立したオイル回路が与えられ、減衰力を個別にコントロールすることが可能になったことから、本来なら相反するはずのダイナミックな走りと快適な乗り心地の双方を大幅にレベルアップした……との触れ込みはたしかに納得のゆくものではある。
しかし、今回の試乗車両が20インチの超扁平タイヤを履いたRラインだったせいなのか、かなりアジリティ優先な仕立てになっているとも感じられた。新規採用された「ビークルダイナミクスマネージャー」も相まってのことだろうが、ステアリングレスポンスともども全高の高いSUVとしては少々スポーティに過ぎるようにも思われたのだ。
ただ、これは先代ティグアンでもそうだったのだが、4輪駆動のTDIになると格段にしっとりとした重厚な乗り味になったことから、型式認証の順序の関係でこの試乗会には間に合わなかったというTDI 4モーション版に期待したいところである。
「俺たちのワーゲン」が還ってきた!
いっぽうエンジンは電動アシストを見越して、ティグアンとしては初めてミラーサイクル化が施されたとのこと。ミラーサイクルは燃費効率優先で、低速域でのレスポンスがやや鈍くなりがちになる特質があるそうだが、新型ティグアンでは18psに相当する「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」の電動アシストが巧みに加わり、1640kgの車体を走り出しからスッと力強く押し出してくれる。
この軽快感は高速道路でも存分に発揮され、軽快な吹け上がりとともに爽快な走りっぷりを披露する。また、パーシャルスロットル域では「アクティブシリンダーマネジメント」機構で2気筒になるとのことながら、筆者の鈍い感性では、その切り替わりなどはほとんど体感できなかったことを告白しておこう。
とはいえ高回転まで回したところで、たとえばゴルフGTIのような快音や鋭いレスポンスが味わえるわけでなく、あくまで実用エンジンの本分をまっとうしているところは、いかにもVWらしいと好感が持てる。
また、時を同じくしてデビューした「パサート」ともども初採用されたロータリーダイヤル式の「ドライビングエクスペリエンスコントロール」など、インフォテイメント系や空調などの操作にまつわるインターフェイスが、タッチスイッチから物理的なものへと回帰するなど、ここ数年遠くなりかけていた「俺たちのワーゲン」が還ってきつつあるようにも感じられたのである。
Specifications
■Volkswagen Tiguan eTSI R-Line
フォルクスワーゲン ティグアン eTSI Rライン
・車両価格(消費税込):588万9000円
・全長:4540mm
・全幅:1860mm
・全高:1655mm
・ホイールベース:2680mm
・車両重量:1610kg(電動パノラマスライディングルーフ装着車は1640kg)
・エンジン形式:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ
・排気量:1497cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FF
・変速機:7速DSG
・エンジン最高出力:110kW(150ps)/5000-6000rpm
・エンジン最大トルク:250Nm/1500-3500rpm
・モーター最高出力:13.5kW(18ps)
・モーター最大トルク:56Nm
・燃料タンク容量:60L
・公称燃費(WLTC):15.6km/L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)4リンク
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前&後)255/40R20