トラストの新たなチャレンジ
自動車業界はこの20年で大きな変化を遂げてきており、さらにこれから厳しくなる環境対策にEV化や自動運転化など、大変革期を迎えようとしている。クルマのチューニングを主軸にして成長してきたトラストにとって、そうしたクルマを取り巻く社会情勢にどのように対応していくのだろうか。
「ペースは少し鈍化しましたけどEV化や自動運転などがどんどん進んでいく中でも我々がやれることはあると思っています。お客様に運転することの楽しさ、クルマを所有することの楽しさ、そしてクルマを自分のスペシャルにすることの楽しさ……、こうした人間の欲求っていうのは変わらないと思っているので、我々が時代に即した製品、環境にも配慮した製品を日々考えて開発していくことで、まだやれることは絶対この業界に残っていると思っています。
それと、トラストのブランディングについても見直しています。まず、お客さんに我々の製品にたどり着いてもらうまでには、結構な道のりがあるんですよね。とくにカスタムやチューニングできるクルマが少なくなってきていて、手を加えられる箇所も少なくなってきたりしているので、タッチポイントがどんどん減ってきているのが現状です。そこで、まずはブランドの認知度を上げていくことから取りかかりました。いきなりクルマのパーツがお客様の入り口になるとハードルも高くなってしまうので、まずはトラストやグレッディの名やロゴを覚えてもらうことからはじめよう、と。それで、いろいろなグッズ展開などから『かっこいいね』『かわいいね』と、クルマに興味がなかった人にもトラストというブランドを知ってもらい、そこからパーツやチューニングに興味を持ってもらおうと思ったわけです。
たとえば、子どもが遊ぶものといったら、今ならゲームですよね。ゲームの中でトラストのクルマが走ってるのを見て、『大きくなったらこのクルマに乗りたい』とか『このクルマは何だろう』からでもいいんじゃない、ということで、eモータースポーツに参戦したりなど、とにかくタッチポイントを増やして我々を知ってもらう機会を増やそうというふうなことを、ここ2、3年は特に注力して行っています。ほかにもガレージに飾るネオンサインや、廃棄を減らすことを念頭に作った風鈴──グレッディ ウインドベルもそうです。正直あんないい音色になるとは、我々も思ってなかったんですけども……(笑)。マフラーの音量を工夫したり廃棄をなくして環境に配慮するなど、時代に即して変わらなければいけないところは我々も変わっていかなければいけない。その中で我々がやれることは何か、そこはもう限りをつけないで、やれることを思いついたら何でもやろうと思っています。
本来のクルマのチューニングに関しても、新たなアプローチをしています。そのひとつが車検対応のコンプリートカーの製造と販売です。プロショップは敷居が高いという方が多く、それならばトラストとしてエントリーモデルとしてのチューニングカーを提供しようというものです。少しでも興味のある人に、チューニングやカスタムに対する理解を深めてもらうことを自らもやっていくべきだと考え、スタートしました。購入者の方からお話を伺うと、『チューニングパーツを付けたいけれど、何をどのように装着していけばいいのかわからない』という方が多くて、そうした方々からはトラストならば安心して相談ができると評価をいただいています。また、コンプリートカーの購入後のメンテナンスは、取引先のプロショップを紹介することで、安心して長く乗っていただけるよう我々もバックアップしています。
もうひとつの取り組みは、『グレッディ ファクトリー』です。一言でいうとレストア事業と言っていいと思います。現行車種にスポーツカーが減っているいま、クルマを大切に長くお乗りになられる方が増えていて、レストアに困っている方が多くいらっしゃいます。ディーラーに持ち込んでも、整備や修理ができないと言われるような古いクルマを、我々が今まで培ってきた知識や経験をうまく使ってワンオフのパーツなどを製作してレストアするという事業です。今、ヘリテージパーツを各メーカーさんもリリースしておられますが、ある程度古くて需要のある車種に限られています。それ以外の──たとえば、一般には需要のない車種だけれども、お父様・おじい様から受け継いで長く乗りたいという、個人的には大切な思い入れの深いクルマもあります。そういったニッチなところのお困りになってるお客様のお手伝いを我々がやっていけるのも、この業界だからできることだと思っています。
そうしたニッチなお客様の需要にお応えすることも、実は我々にとってとても勉強にもなるんです。直接ユーザー様のお声を聞くことができ、納車の際に直接弊社にいらして、とても喜んでくださるんですね。普段我々はパーツを作っていますけれど、直接お客様に届けるわけではありません。ですが、お客様が喜ぶ姿を拝見できるのは、やっぱり現場の励みにもなり、社員も仕事にやりがいを感じるんです。ですから、この活動は地道に続けていこうと思っています」
これからNAPACに求めるもの
最後にトラストが加盟しているNAPAC(一般社団法人 日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会)の活動について、今後期待していることを伺った。
「これから業界的にはなかなか難しい状況になっていくなか、1社単体で何かをしようとしても難しい。そこで、NAPACのように団体としていろんな活動や働きかけをしていくことの重要性が高まると思っています。いろんな分科会があって参加させていただくのですが、様々な大きな動き小さな動きも含めて情報交換ができる場として、NAPACは非常に我々にとっても重要になっております。とくに法規制であったりとか、世の中の動きが変わるときなどは、NAPACには業界最大の団体として、フロントに立っていろんな動きをしていただきたいですし、会員の交流をもっともっと活性化させていただいて、一緒になってこの業界をどうやって盛り上げていくか考えられるようにしていただきたいと常々思っています。
以前はHKS、ブリッツ、トラストというと、3大メーカーということで、バチバチのライバルといったイメージがすごく強かったのは確かです。しかしここ3年ぐらいですかね、だいたい同年代の方たちが各社を引っ張っていくような立場になって、それと同時に業界の大変革期ということもあって、イベントなどでお会いしてもいろいろな情報交換をしたりなど、いまは結構交流を持っています。そこで皆さんとお話しして同じ意見なのは、パーツ、製品の部分に関しては、切磋琢磨して今まで通り良いライバル関係という形で業界を盛り立てていこう。とはいえ業界関係者としては、1社が頑張ったところでどうにもならない問題がどんどん出てきているので、業界全体一緒になって業界を盛り上げていこう、と。特にHKS水口社長とは、HKSさんが単独開催なさっている『HKS PREMIUM DAY』をもっと業界の団体、それこそブリッツとトラストも加えた3社、そして関連するNAPACの会員社にも参加していただいて、アフターパーツの一大イベントみたいなことに育てていき、もっと大勢のお客さんに来ていただこうと。例えばですけど、3社でデモカーを出して乗り比べていただくなどのそれぞれの特徴を一気に体験していただくような場を作って、まずはアフターパーツに興味を持ってくださる方をもっと増やして育てていけるといいですねと、会うたびにお話ししています。それにぜひともNAPACも一緒になってやっていただきたいと思っています。そしてこの業界をもっと熱く、もっと幅広いものにしていけると嬉しいですね」
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いわゆるエンジンによる自動車が特許を取得したのは19世紀末。クルマが現在のように庶民の手にわたるようになってから100年にも満たない。日本でクルマが文化として認められるようになるのは、まだまだこれからという感じではあるが、2000年代頃から欧州ではすでにヘリテージに対する高い意識が芽生えていた。BMWやメルセデス・ベンツなどのドイツメーカーにフェラーリやランボルギーニなどのイタリアメーカーは、自らのブランドのヘリテージを守るべく、古いクルマのレストアに手厚い。ベントレーやジャガー、アストンマーティンなどの英国ブランドにおいては、過去モデルをコンティニュエーションシリーズとして生産するほどである。そこには、クルマが使い捨てではない文化遺産という意識が通底している。昨今ではレストモッドというワードも頻繁に目にするようになり、シンガーなどがその筆頭といえるだろう。
そうした世界的な流れの中で、トラストが取り組む「グレッディ ファクトリー」は、まさしく日本におけるレストモッドの活動に近いものがあると思う。クルマのチューニングやカスタムは、まだ日本では一部マイナスのイメージを抱いている人も多いと飯岡さんは語る。そうした人たちの意識を変え、それがカルチャーとして浸透するためにも、トラストはいま、新たな試みにチャレンジしている途上である。グローバル企業でもあるトラストだからこそ、北米や欧州の車業界の動向をキャッチし実行に移しているとも言える活動は、クルマ好きならば誰しもがエールを贈りたいもの。今後のトラストの活動、まずは東京オートサロンに出品されるトヨタ「ソアラ」に注目である。