条件を考えれば大健闘!
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「ヒョンデ アイオニック5N」です。負の条件を抱えながら10ベストに選出され、最終選考会6位になった理由を分析したいと思います。
アイオニック5Nはまっさらの新車ではない
2024年12月5日に行われた「2024-2025 日本カー・オブ・ザ・イヤー」(COTY)では、韓国のヒョンデ「アイオニック5N」は大健闘だと言ったほうがいいと思いますね。
日本でもっとも権威のある自動車賞でアイオニック5Nは、いわば予選ともいえる第1選考で「10ベスト」に選ばれ最終選考の対象になりました。そればかりか、最終選考では6位に輝いたのです。総得点は52点。これには驚かされました。
総合トップの大賞に輝いたホンダ「フリード」は220点を得て栄冠を手にしました。惜敗したマツダ「CX-80」は196点でした。3位は「ミニ クーパー」で172点。輸入車の最上位だったことで、日本インポートカー・オブ・ザ・イヤーに輝いています。
それと比較すればアイオニック5Nは6位であり52点です。「惜しくもなんともないぞ」と、短絡的に考えられてしまうかもしれませんね。ただ、条件を考えれば大健闘したと思えるのです。
というのも、アイオニック5Nはまっさらの新車ではありません。アイオニック5Nのベースモデルのアイオニック5は派手に2022年に日本国内に投入されています。その年のCOTYでは10ベストに選出され、最終選考会では6位に輝いているのです。つまり、アイオニック5Nはアイオニック5のひとつのグレードにすぎません。アイオニック5として見れば、新鮮味は薄れています。これはCOTYで得票を伸ばすには不利な状況ですね。
追加グレードながら最終選考に残れたのが凄い!
COTY選考理念には「その年に国内販売されたモデルの中の優秀なクルマに……」との文言があります。これまで例外なく大賞は、新型モデルに輝いています。マイナーチェンジや車種追加は選考対象車に選ばれることも稀なのです。
日本レコード大賞や漫才のM1グランプリにたとえるならば、一昨年にヒットした歌を再編曲した、あるいは爆笑をさらったネタのリニューアルが評価されることはないですよね。やや妙なたとえをお許しいただきたいのですが、つまり、単純なグレード追加モデルが最終選考で6位になるなんて、腰を抜かしかけたとしても許されるような気がします。
じつは不肖木下隆之は、マツダ CX-80に最高点を与え、次点をホンダ フリードとしました。3位はアイオニック5Nとしています。つまり、アイオニック5Nを高く評価しているということです。とはいえ、これほど評価されるとは思っていませんでした。最終選考会の会場で、得点が積み重なるモニターを2度見してしまったほどです。
それが証拠に、僕が高く評価していたトヨタ クラウンスポーツは、10ベストから落選しています。専門家の評価は高いのですが、クラウンには4つの車型があり、そのひとつであるクラウンクロスオーバーが2022年に3位になっています。車種追加ゆえに得点が伸びなかったのではないかと推察しているのです。
趣味性の高いモデルは票を得づらい傾向にある
さらに言うならば、趣味性の高いモデルは票を得づらい傾向にあります。60名の選考委員が10ベストに選出されたモデルの中から3台に投票しなければなりません。しかも、1位には10点、2位には4点、3位には2点が決まりです。評価が僅差だからと言っても、10点と9点に振り分けることはできません。平均的に点数を稼ぎやすいモデルが有利なのです。
趣味性の高いモデルは好き嫌いが分かれるところですね。とくにスポーツカーはその傾向が強いようです。平均的に評価されやすいモデルが有利という点でアイオニック5Nは不利なのです。それでも6位に輝いた。僕が驚きを隠せないのはそれが理由です。
近年では2022年に日産 フェアレディZが7位、3年前のトヨタ 86/スバル BRZの2位は大健闘しましたが、シボレー コルベットは7位でした。スポーツカーが大賞に輝いたのは、いまから18年前のマツダ ロードスターに遡らなければなりません。
つまり、アイオニック5Nはそれほど多くの負の条件を抱えながら10ベストに選考され、しかも最終選考会6位になったのですから、その数字より高く評価されたのだと言っていいと思います。これからアイオニック5Nから目が離せませんね。