友達が何人も同乗して参戦できる身近なラリー
ラリー競技への参戦経験豊富なベテランやレジェンドラリーストから、まったくのビギナーである若手や年配者まで、みんなが集まってラリーを楽しんでいるイベントがJAF公認イベントの「関東デイラリーシリーズ」。2024年の最終戦第5戦、男女川ラリーにも、若者たちの参戦模様が見受けられました。そんな参戦チームのひとつ、常連でもあるKANTO・関東工業自動車大学校からの学生たちにデイラリーの魅力を聞いてみました。
関東工業自動車大学校ラリー部は4名のクルーで挑む
国家資格である自動車整備士の資格習得を目指して、日々、実習勉学に励んでいる関東工業自動車大学校の学生たちですが、同大学校にも課外活動としての部活が備わっています。厳しい学習期間のなかで、それぞれが好きなジャンルで仲間を通じて社会性を育むことができるのが部活。同校では自動車競技に関わるレース、ラリー、ドリフトなどの部はもちろん、サッカー、バスケット等々、いろいろな部活があるとのこと。今回、デイラリーに参戦していたのは、やはりラリー部の面々でした。
同校ラリー部は毎年、関東デイラリーシリーズに参戦を続けており、同シリーズが始まった当初から数えて10数年の参加歴を持っているとのこと。デイラリー生え抜きの参加チームでした。
関東工業自動車大学校ラリー部のチームは、競技車のスズキ「スイフトスポーツ」でCクラスへのエントリー。デイラリーでは1台に乗車定員まで競技者が乗り込んで参戦できますので、これを活用し、今戦は4名のクルーで臨んでいます。
ドライバーは渡邉ひかるさん、コ・ドライバーに渡邉公輔さん、石井璃玖さん、多田浩也さん。それぞれ1級整備士/2級整備士を目指すコースに在籍している4名のクルーたちは「チームメガネで~す」と即座に冗談が飛んできたほど賑やかでした。
ちなみにデイラリーでは参戦クラスはA(エキスパート)、B(ベーシック)、C(チャレンジ)、L(レジェンド)の4クラスがあります。
すでに次戦に向けての参加表明も
まずはドライバーの渡邉ひかるさんに話を聞いてみました。
「軽自動車のレースに出たことがあり、いいモータースポーツだなあと思ったことがあります。レースで勝つのはワガママな人、というか自分を押し通せる人。レースはそんな『勝ちの形』だなあと思ったんですけど、でもラリーはまるで違っていて、言ってみれば協力戦? 今回初めてドライバーとして計算ラリーに出ていたんですが、わたしは何も分からない。ルート上にあった坂道発進時でも、『サイドブレーキ引いて』って後ろから声がかかってきたり。こういった、友達が何人も同乗して参戦できる競技なので、初めてのモータースポーツ挑戦であっても安心感が違います!」
メカニックとしてビギナー・ラリーに参戦したこともあるという渡邉ひかるさんですが、ドライバーとして初参戦して不安な気持ちは、スポーツの現場に真剣に向き合っているみんなの力で緩和され、時にワイワイと話が飛び交うラリーで一気に吹き飛んだとのこと。
「来年もシーズン参加します」
また、フロントシートに座したコ・ドライバーの渡邉公輔さんは、指示されたアベレージ速度走行の差異をなくすように、ドライバーに対して速さ/遅さを指示する運転補佐役。
「今回一度だけ大失敗。指示されたアベレージ速度への対応を、紙に書きながら計算して割り出したのですが、これがデカイ間違いになってしまった! 悔しい! でも楽しかった! だからリベンジしたいのです」
と、次戦への強い意思を表明していました。
シリーズに何度か参戦経験のある石井璃玖さんは後部シートに座したひとり。
「前戦参加の時よりも今回は比較的スムーズな指示速度で、私にはやりやすかったです。競技ルートのナビゲーション案内役としてドライバーに伝えていたのですが、簡易な絵と文字の『コマ図』なので、うっかりひとつ通り過ぎるミスコースもしてしまいました。つねに実際の道と照らし合わせていく、そんな緊張感が楽しかったです」
後部シート石井さんの隣には、今回デイラリー初参戦の多田浩也さん。
「役割としては、コ・ドライバーへのアドバイスをメインでしていました。指示速度走行との誤差計算をフォローするなどです。道案内もちょくちょく。完走した時には、自分もドライバーやってみたいなあという思いが湧いてきましたので、次はドライバーを目指します。学校でクルマをいじっているのは楽しいんですが、ラリーの現場では、実習と違った楽しさがありました。現場でなにか磨かれていくようでした」
と語ってくれました。
モータースポーツ初心者にとって一挙両得なデイラリー
みんなの家庭に行き渡っているクルマにはメンテナンス、整備点検による安全性維持が必須です。この作業を遂行できる能力を持つ自動車整備士がいるからこそ、クルマに支えられているみんなの社会生活が成り立っています。
ドライバーとコ・ドライバーのコミュニケーションを介して、競技区間で指示速度に応じたアベレージ走行をこなし正確な走行を競うデイラリーは、競技舞台である公道を安全に走れるクルマあってのもの。WRC(世界ラリー選手権)など規模の大きいラリー競技では、スピード走行の限界域を勝負する競技マシンを入念にチェックするサービスポイントが設けられています。若き整備士はプロフェッショナルのモータースポーツの現場でも、人材として求められているメカニックの卵でもあるのです。
整備士を目指している彼らは、デイラリーの現場で掴んだものを何かしらフィードバックすることになるでしょうから、クルマ文化全体としても、ますます充実してくると期待せずにはいられません。
1980年代、WRCの主力戦闘マシンが市販車そのものの形状だったグループAの時代では、三菱やスバルが世界選手権やアジアパシフィック選手権へ、全国のディーラーから集った整備士を引き連れて、世界のラリー現場の熾烈なサービス地点に送り込み、現場を体験させていたことがよくありました。
デイラリーでは参戦して完走を果たせば、JAFの競技ライセンスの交付申請をして、モータースポーツイベント参戦に必要なJAF競技ライセンスの第一段階であるBライセンスが取得できます。講習料を払って受ける座学でライセンスを取ることもできますが、デイラリーではラリー現場の実体験を通してライセンスを取れるのです。
モータースポーツビギナーにとって一挙両得な価値があるデイラリー。初期から参加していた関東工業自動車大学校ラリー部に、そんな判断があったのは明らかでしょう。表彰式後、申請用紙をもらいに事務方に駆けつけていた参加者も10人ほどいました。
クルマ社会に欠かせない整備士が人材不足になりつつあると危惧されている昨今の日本ですが、ゆくゆくは学生たちが整備するようになる普段使いのクルマとともに、モータースポーツとしてのラリーの楽しみ方も市場に広まっていく、そんな未来が感じられるデイラリーでもありました。