ミッドシップ車らしいコーナリングを楽しめた
2023年12月にマクラーレン・オートモーティブが発表した「GTS」は、それまでの「GT」の後継車であり、また正常進化型ともいえるモデルです。「750S」や「アルトゥーラ」といったシリーズと比較して、スーパースポーツとしてのパフォーマンスは高い水準で確保しつつも、より快適で使い勝手の良さにも留意したとされるGTシリーズ。今回それがGTSへと進化したことで、実際にどのような変化が表れているのでしょうか。
ハブに装着されるスタッドボルトはチタン製に変更
マクラーレン「GTS」のエクステリアデザインは、もちろんそれまでの「GT」のシルエットをそのまま継承したものだ。その姿は流麗で、ほかのマクラーレン車と比較しても独特な落ち着き、あえて別の表現を用いるのならば、大人の優しさを感じさせる造形に仕上がっている。ディテールの進化はかなり広範囲にわたるものだ。
ハンマーヘッドと呼ばれるフロントバンパーはさらにエアインテークが拡大され、エアブレードやリアのエアスクープとともにグロスビジュアルカーボン仕上げを選択することも可能になった。リアフェンダー上に新たに設けられたエアインテークも同様。10スポークデザインの軽量鍛造アロイホイール「ターバイン」もGTSで新設定され(試乗車にはまだ装着されていなかったが)、スタッドボルトは従来のものに対して35%も軽量なチタン製へと改められた。
インテリアは世界に1台だけのトリムが選べる
軽量なCFRP製のディヘドラルドアをオープンすると視界に飛び込んでくるインテリアも、トリムの選択肢はさらに拡充され、カスタマーの希望によっては世界に2台と存在しない内外観で、MSO(マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ)の手による独自のGTSを製作することも可能。10.25インチサイズのデジタルインストゥルメントディスプレイと、7インチの縦型タッチスクリーン・インフォテインメントシステムが採用されたインパネまわりのデザインや、スイッチの操作性は秀逸だ。
センタートンネル上にレイアウトされる、7速SSG(シームレス・シフト・ギアボックス=デュアルクラッチ式ミッション)のセレクターボタンで「D」レンジをチョイスし、さっそくGTSの走りを体験してみることにする。アクティブ・ダイナミクス・パネルのロータリースイッチで「コンフォート」モードを選択すれば、クワイエット・スタート機能が働くため、早朝や深夜の住宅街でもさほどの罪悪感なく、この高性能なGTを乗ることが可能だ。一方「スポーツ」や「トラック」といったモードを選べば、アクセルレスポンスは明らかに鋭さを増し、パワーユニットとは独立してやはり同様の3モードが備わるシャシーのセッティングも明確にそのキャラクターを変える。
素晴らしい乗り心地とコントロール性を発揮
ドライブを始めてまず気づいたのは、GTSの基本構造体たるカーボンモノコック、「MonoCell II-T」の比類なき剛性感だ。それがあるからこそ、連続可変の電子制御デュアルバルブ・ダンパーを持つプロアクティブ・ダンピング・コントロール・サスペンションにも高い剛性が得られて、GTSは素晴らしい乗り心地とコントロール性を発揮してくれるのである。高速道路に入り、車速が100km/hに達する頃になるとさらに印象深くなるしなやかな乗り心地と安定感。その先にはより魅力的な世界が存在していることは想像に難くない。
リアミッドに搭載されるM840T型エンジンは、それまでのGT用からさらに点火タイミングを見直すことで、高い燃焼圧力とトルクを生み出すことに成功している。4LのV型8気筒ツインターボという基本設計に変わりはないが、最高出力はGTから15ps向上して635psに、最大トルクも630Nmという数字を得るに至った。
このエンジンの特長は、実用域でのフレキシビリティ。アイドリングレベルから厚みのあるトルクを感じることと、車両重量1520kg(DIN空車重量値)という軽量さが相まって、ストリートでもほとんどストレスを感じることがない。そして郊外の道へと出てフル加速を試みれば、0-100km/h加速を3.2秒でこなす俊足ぶりを体験できるのだから、その二面性には試乗中に何度も驚かされた次第だ。
実用性も兼ね備えた1台
前後方向にかなり長いサイズを持つリアハッチは、電動式でオートマチックの開閉が可能。マクラーレンはここにゴルフバッグも積み込めると胸を張るが、たしかにキャビン後方のこのスペースの実用性は高い。実際のラゲッジ容量は420L。さらに前方のトランクルームには150L分のスペースが確保されているから、短期間の旅行といった程度の荷物ならば十分に積み込むことができる。
GT=グランド・ツアラーとして、きわめて魅力的なデザインと走り、さらには実用性を兼ね備えるマクラーレンGTS。最後に触れなければならないのは、やはりスーパースポーツとしての資質だろう。今回の試乗では「トラック」モードを試すチャンスにはほとんど恵まれなかったが、パワーユニットとシャシーの両方を「スポーツ」モードへと移行しただけでも、そのパフォーマンスには大いに感動させられた。
最大で100kgのダウンフォースが生み出されるという新デザインのボディは、高速域での安定性向上に大いに役立っているし、ステアリングの正確性やそれを切り込んでからの車体の動きも、さすがにマクラーレンのセッティングといった印象だった。参考までにGTSの前後重量配分は42.5:57.5。ブレーキングでしっかりとした荷重移動を行えば、じつに自然なミッドシップ車らしいコーナリングを楽しむことができるのだ。快適なGTとして、そして同時に世界最高水準のスーパースポーツとして、マクラーレンGTSはたしかに魅力的な存在だった。