燃料電池車のほとんどはリース契約
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードはホンダ「CR-V e:FCEV」です。燃料電池車の補助金について考えてみたいと思います。
プラグイン方式はホンダのみ
ホンダ「CR-V e:FCEV」の最大の特徴は、燃料電池車でありながら、プラグイン方式を採用した点にあります。搭載する水素を大気中の酸素と化学反応させ、発生した電力で電気モーター駆動するのが燃料電池車ですが、ホンダはその機能に加え、急速充電器などで電力を補充することを可能にしているのです。
トヨタの「クラウン」や「ミライ」、あるいは韓国ヒョンデの「ネッソ」など、国内販売されている燃料電池車は存在しますが、1台もブラグイン方式を採用していません。いずれも水素ステーションに通って、水素をチャージする必要があるのです。
もちろんCR-V e:FCEVも燃料電池車ですから、水素を充填しなければ長旅はできませんが、仮に水素が空になったとしても、サービスエリアや販売店に設置されている急速充電器や自宅の普通充電器(200Vで対応していることが条件)にケーブルを連結させれば近距離走行は可能なのです。これは燃料電池車の可能性を広げますね。
これまで燃料電池車の顧客は、公官庁や企業など、普及促進に協力的な顧客に限られていました。その理由は水素ステーションが少ないことと無縁ではありません。自治体にしか普及していなかったのは、走行ルートが確定しているからです。
「近所に水素ステーションがないから買えないよ」
そんな不満を持っているユーザーも少なくなかったはずです。その意味でプラグイン化は燃料電池車の救世主になるような気がしています。
225万円の補助金が支給されるが、期限内に売却すると全額返金……
ただし、問題も残されています。燃料電池車を含む環境車には、政府や自治体の補助金制度を頼りにしたいところですね。CR-V e:FCEVに対しては政府から、255万円の補助金が支給されます。車両価格は809万4900円(消費税込)ですから、単純に計算して554万4900円で購入できることになります。水素充填にハンディを抱えているうえに高価すぎる燃料電池車でしたが、パーソナルユースとしてきわめて現実的になりましたね。
もっとも自治体によってはリース販売が対象外になっていたり、数年間は保有する義務が存在します。何らかの事情によって期限内に売却した場合には、補助金を全額返金する義務を負うのです。
燃料電池車のほとんどはリース契約になります。ホンダCR-V e:FCEVはプラグイン化によってパーソナル性がありますから、リースではなくマイカーとして購入を希望するユーザーも少なくありません。その点が障害にもなりそうですね。
ちなみに、燃料電池車がリース販売を基本としていることには理由があります。そもそも自治体や企業などを対象にしていたために、リース契約は都合が良かったのです。
レアメタルの国内確保も理由のひとつでしょう。燃料電池車にはとても多くの希少な鉱物が組み込まれています。その希少な鉱物がどこかで廃棄される、もしくは海外に渡ってしまうことを嫌うのです。そのために所有権を確保したままリース契約方法をとっているわけです。
まだ耐久性などが100%検証されていない技術でもあります。劣化による性能低下など、走る実験車としても、手の届くところに置いておきたいという目論見も見え隠れしますね。
プラグイン化によって燃料電池車がより身近な存在になる可能性を秘めていますが、そのほかにもさまざまな問題を抱えています。まだまだ課題は山積みのようですね。