漫画『サーキットの狼』連載開始から50年! スーパーカーブームを振り返る
1970年代後半に日本を席巻した「スーパーカーブーム」のきっかけは、池沢さとし(現・池沢早人師)さんによる漫画『サーキット狼』の大ヒットでした。その連載開始が週刊少年ジャンプ1975年1月6日号(発売は前年12月10日)ということで、AMWでは2025年を「スーパーカーブーム50周年」と見立て、当時の熱狂を知る皆さんに思い出を振り返ってもらうことにしました。今回は、「日本一のフェラーリ遣い」と呼ばれた元レーシングドライバーのモータージャーナリスト、太田哲也さんです。
努力と情熱で「権力」に立ち向かうロータス ヨーロッパに心を掴まれた
思い入れの深いスーパーカーといえば、『サーキットの狼』の主人公、風吹裕矢が駆ったロータス「ヨーロッパ」だ。このクルマは、ライバルに比べて非力だが、低い車高や軽量ボディが有利な点で、漫画の中でも際立った存在感を放っていた。物語の中で、裕矢がライバルたちと繰り広げるレースは、スーパーカーの魅力を余すところなく描き出しているが、それ以上に僕の心を掴んだのは、その背景にある人間ドラマだった。
ライバルの早瀬佐近が乗るポルシェ「911カレラRS」もまた別の意味で印象深い。ハイパワーで直線の速さを誇るポルシェに対し、コーナリング性能で挑むロータス ヨーロッパ。でも低い車高が災いして悪路ではスタビライザーをぶつけてしまうからスピードを出せないハンデがある。早瀬佐近はいかにも金持ちのボンボンで、それがポルシェのキャラクターとマッチする。
僕は判官びいきなので、努力と情熱で「権力=ポルシェ」に立ち向かうロータス ヨーロッパの姿勢を自分と重ね合わせていたのだと思う。当時ははまだ免許を持っていなかったが、この漫画を通じてクルマへの興味と同時に、その頃はまったく縁がなかったレースに対する興味を持ったのだった。たとえば「幻の多角形コーナリング」という走り方に、これが本当に可能なのかと強い衝撃を受けた。
池沢先生に「幻の多角形コーナリング」について聞いてみると……
僕がフェラーリのGTのチームに移籍したころ、『サーキットの狼II モデナの剣』の第2巻(1990年6月発行)であとがきを書くという名誉をいただいたこともあり、この作品との関わりはその後も特別だ。この漫画がなければ、僕がレースの道に進むこともなかったかもしれない。振り返れば、レースやスーパーカーに縁がなかった僕がレーサーになり、さらにはスーパースポーツの試乗記を書く立場になるきっかけとして、『サーキットの狼』は欠かせない存在だった。
50年を迎えるスーパーカーブームの原点として、この作品が与えてくれた情熱と興奮、そしてそこから広がった多くの縁に感謝を込めて、改めてロータス ヨーロッパへの思いを記したい。あの頃の熱気は今でも心の中で燃え続けている。
ちなみに著者の池沢早人師さんと親しくさせてもらってから、あの幻の多角形コーナリングについて「あんな走り方します?」と聞いたら、「筑波の最終コーナーはそんな走りもするじゃない」と言っていた。まあそんなものか。