CTRではない、BTRでもない自然吸気のRUF製ポルシェ911カレラ
RMサザビーズ欧州本社は2024年12月1日、ドバイにおいては2度目となるオークションを開催。いかにもドバイらしくハイパーカーやスペシャルなカスタマイズドカーなど、とにかく派手な出品ロットが多く見られた一方で、ヤングタイマー世代のスーパースポーツたちも渋い存在感を放っていました。今回はその中から、創業から間もない時期の「RUF(ルーフ)」が仕立てた「911カレラ 3.2」を紹介します。
911ターボの抜けた穴を埋めるモデルだった? RUF 911カレラ 3.2とは……?
1970年代の中盤から世界の自動車メーカーを震撼させていたエミッションコントロール(排ガス規制)の強化により、ポルシェ本社は1977年モデルから米国でも発売していた「911ターボ」の販売を、一時的に取りやめざるを得なくなってしまう。
そこで、西ドイツ(当時)にて小規模の「ブティックメーカー」として名乗りを上げたばかりだった「RUF(ルーフ)オートモビルズ」は、911ターボのアグレッシブなスタンスはそのままに、ターボチャージャー過給に頼らないフラット6エンジンを載せたモデルを、主に北米マーケットを対象にリリースすることとなった。
911ターボと同じワイドボディが与えられたRUF「カレラ 3.2」は、ビルシュタイン製サスペンションキットの装着によって車高を下げ、「ホットな」プロフィールのハイカムシャフトや特注のメーターを装備。5速マニュアルトランスミッションを介して、当時の北米仕様カレラをはるかに上回る240psを発生した。
ところが1986年に、エミッションコントロールに対応した改良型の911ターボがアメリカで販売を再開したため、このニッチ的なプロジェクトは縮小を余儀なくされてしまった。
しかし、ポルシェのファクトリーモデルを示す 「WP0……」というプレフィックスではなく、「W09……」というRUF独自のシャシーナンバーのおかげで、生産されたわずかな台数は重要な意味を持つことになったのだ。
RUFのオフィシャル資料によれば、生産されたRUF カレラ 3.2は10台にも満たないとのことである。
カナダからアメリカ、イギリス、中東を渡り歩いた個体
このほどRMサザビーズ「Dubai」オークションに出品されたRUF仕立ての911カレラ 3.2は、特徴的な色合いの「ガーズレッド」のボディカラーにブラックのレカロシートの組み合わせ。伊「スピードライン」社製のRUF純正17インチ5本スポークホイールを装着し、カナダに輸出された3台のうちの1台と見られている。
1984年12月1日、アルバータ州の「ジャーマン・オート・セールス」社を介してRUFにオーダーしたオンタリオ州在住の初代オーナー、ボブ・カースウェル氏は、通常のポルシェ・カレラよりも2万ドル高いプレミアムを支払ったとのことである。彼は1985年5月30日から1987年7月までこの911を所有し、そののちカルガリーのピーター・ハットン氏に売却された。
そして1989年1月、RUF 911はブリティッシュ・コロンビア在住のジョージ・B・マルシアル氏に譲渡されることになった。「ポルシェ・クラブ・オブ・アメリカ」のメンバーでもあったマルシアル氏は、18年後の2007年5月に至るまでこの個体を所有し、その時点で11万2400kmを走行していたと報告されている。
4人目のオーナーはカナダ・サスカトゥーンを拠点に2013年5月までこのクルマを所有し、その後はアメリカ合衆国アリゾナ州に移ったのち、2013年末にアブダビ在住の人物によって購入された。
彼らの所有期間中にはイギリスのコーンウォールでも過ごした時期もあり、この時『911 & Porsche World』誌2017年9月号に掲載される前に、ポルシェおよびRUFのスペシャリストであるウィリアムズ・クロフォード氏によってチェックを受けたとされている。
走行距離は13万9968キロを刻んでいる
この希少なRUFカレラ3.2は、オークションの公式ウェブカタログ作成時点で13万9968kmを走行していた。また、その生涯を通じて入念にメンテナンスされてきたため、包括的なヒストリーファイルや刻印入りのサービスブック、オーナーガイドが残っているほか、純正のツールロール、スペアホイールも付属品として完備している。
ところで、今回のRMサザビーズ「Dubai」オークションは、舞台はドバイながら売買はすべて米ドル建て。そして同社欧州本社の営業部門は現オーナーとの協議の結果、37万5000ドル~42万5000ドル(邦貨換算約5920万円〜約6700万円)というなかなか強気のエスティメート(推定落札価格)を設定することとした。
このエスティメート自体は、ビッグバンパー時代のポルシェ911をベースとする創成期の空冷RUFとしては決して高すぎるものではないと思われる。ところが、現在の国際マーケットでもてはやされるのは「BTR」や「CTR」など、あくまでRUF本社でコンプリートカーとして製作されたターボチャージャーつきモデルに限定されるようだ。
この時代、ルーフとボディサイドパネルの継ぎ目にあるルーフチャンネルを削り落とすのがRUF製コンプリートカーの流儀だったはずながら、それが残されているこのRUF カレラ 3.2は、今回のオークションでは売り手サイドが設定したリザーヴ(最低落札価格)には届くことなく、結局Not Sold(流札)に終わってしまったのである。