EVの限界性能を追求する新時代のアイコン
ドイツ人のフェリクス・ハインリッヒ・ヴァンケルが発明し、ドイツのNSU社の協力で1957年に登場したロータリーエンジンが従来のレシプロエンジンに代わる画期的な方式として、世界中から注目を集めてから、60年以上が経つ。
メルセデス・ベンツもこのロータリーエンジンの開発を実施し、1969年9月の実験試作車C111に初めて3ローターのロータリーエンジンを搭載し、次いで4ローターエンジンを搭載して発表した(C111-II)が、1973年の第1次オイルショックでロータリーエンジンの燃費性能などの問題で開発を打ち切った。
しかし、メルセデス・ベンツは実験試作車C111に5気筒ターボディーゼルエンジンを搭載して1978年に9つの世界速度記録を樹立(C111-III)。翌年の1979年には4.5L V型8気筒ガソリンエンジンを2基のターボチージャーでパワーアップし、ナルドサーキット最高速度記録を樹立した(C111-IV)。
1969年以来、メルセデス・ベンツC111は2024年で55周年を迎えた。C111は、実験試作車というコンセプトに基づき、「ロードカーにおける空力の限界を見極めること」、そして、「量産型エンジンの開発限界を知ること」ということが目的であり、決して市販車ではなかったことが、一連のC111で最もよく理解できたといえる。
そのような流れのなかで、2023年にメルセデス・ベンツが新しいコンセプトカーとして発表したビジョン ワンイレブンは、その名が示す通り、伝説的な実験試作車C111へのオマージュであり、次世代のメルセデス・ベンツが目指す「アイコニック・ラグジュアリー」の方向性を示すものである。
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ところで、ロータリーエンジンが登場した当時、世界の各社がこれに挑戦し、NSU社への技術提携の申し込みは100社に及び、日本だけでも34社になったという。実用化に向け山積する技術課題を解決し、量産にこぎつけたのは4輪車ではマツダ、NSU社、シトロエン社のみであったが1973年の第1次オイルショックによる燃費の問題などで、そのほとんどが撤退した。
近年ではマツダのみがロータリーエンジンのさらなる挑戦を続け、モータースポーツ分野で1991年6月、第59回ル・マン24時間レースで2台のマツダ「787B」ロータリーが総合優勝と6位、さらに「787」が8位という快挙を成し遂げたのがまだ記憶に新しい。しかも、今日ではマツダ「MX-30」のロータリーEVが走りだしていることを追記しておく。