見た目はレーシーなナナサンカレラRSR風
女性カスタマーからの特別注文を受けるにあたって、リント社はまず適切なドナーカーを探すことから始めなければならなかったが、そのミッションは自社のコネクション内でこなし、エンジンとギアボックスなどの主要メカニズムはすべて除いた「バスケットケース」状態で北アイルランドから移送されることになる。
当然ながら、ベース車両はフルレストアが必要な状態。とくにボディシェルのコンディションが悪かったため、リントの工房にあるボディ治具に載せて4カ月かけて改修が行われる。必要な部分には新品のシートメタルが使用され、オーバーフェンダーのついた「RSR2.7」スタイルに改造された。
ボディカラーは、映画『栄光のル・マン』でもおなじみ往年のJWポルシェ917に塗られていたガルフ石油のカラーリングである「パウダーブルー」。同じくガルフカラーの一端を担うオレンジ「マリーゴールド」で仕上げられた。グループ4カンパニョーロ・レプリカホイールがレーシーな雰囲気を完成させている。
また、リアエンドの「ダックテール」エンジンフードを開くと、オリジナルのGシリーズでは2.7L+ボッシュ燃料噴射だったのに対し、排気量3.2Lにリビルドされ「Jenvey Dynamics」の燃料噴射キットと再プログラム可能なECUも装備したフラット6ユニットが姿を現す。
中身は快適なツーリングカー
いっぽうフルオーダーされたインテリアには、964シリーズ純正のヒーターつき電動シート、「KENWOOD」のタッチスクリーン式インフォテインメント&GPSナビシステム、クラシックなレトロフィットエアコン、「ガルフ」にインスパイアされたタータンチェックのファブリック装飾、「MOMOプロトティーポ・ブラックエディション」ステアリングホイール、オレンジとブルーのステッチが施されたリネン本革シート、クイックフィットのセーフティ・カスタムシートベルト、ツインの英国スミス社製ストップウォッチ、レザーで縁取られたダッシュボードのトップロール、オーナーのイニシャルをあしらってパーソナライズされた文字盤などが採用されている。
日本のケンウッド製の2DINサイズモニターには「Apple CarPlay」が内蔵され、バックカメラの表示も可能。フロントとリアのパーキングセンサーも装備されている。そしてリントのロゴは、インテリア、エクステリア、そしてクーリングファンのブレードにまで施されている。
このユニークなポルシェ911はレストア作業の完了以来、2024年初頭に英国内で行われたコンクール・デレガンス「サロン・プリヴェ」を含む数多くのイベントに参加し、ポルシェ愛好家の間で頭角を現すことになった。
リビルドが終了してからの走行距離はわずか1000マイル(約1600km)ほどに過ぎず、これから同じようにレストモッド化したいのならば、現在では今回の設定価格よりもかなり高額の費用を必要とすることは間違いないだろう。
そのあたりを踏まえたボナムズ社は、今回の出品にあたって完璧なコンディションをアピールするかたわらで、16万ポンド~20万ポンド(邦貨換算約3168万円〜3960万円)という、昨今流行のレストモッド車、しかも空冷911をベースとしたものとしては、かなり控えめなエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
ところが2024年12月12日、ニュー・ボンドストリートのボナムズ・ショーケースで行われた競売では予想外にビッド(入札)が伸びなかったようで、残念ながら流札に終わってしまった。ひょっとすると2ペダルであることが災いしたのかもしれない。
そして現在では、13万ポンド〜18万ポンド(邦貨換算約2570万円〜約3550万円)までプライスダウンしたうえで、継続販売中のようである。