原始的なヒーターでも十分に温まる
名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第50回は「真冬のチンクチェントは意外や快適」をお届けします。
フローズン・チンクエチェントが見られる季節になった
2022年の元旦は、ちょっとばかり鬱々とした気分で迎えることになった。黒く巨大なワンボックスを運転してたあんぽんたんからの、もらいたくなんかなかったクリスマスプレゼント。もしも壁ドンしてたら、ヘタすると命に関わるような事態に発展してたかもしれない。ホイールキャップ2枚ですんでよかったじゃん! という考え方もあるっちゃあるし、事件を知った誰もがそんなふうに言ってくれたが、傷ついたゴブジ号の足元を見るたびに溜息が出て、寒々しい気分になる。
いや、実際に寒かった。だって真冬じゃん……。正月に再び仲間と飲むために地元の埼玉に行き、雨や雪が降らないことを天気予報で確認して実家の前に停めておいたら、朝にはそれはもうキンキンに冷えたフローズン・チンクエチェントができあがっていた。今回のメイン・カットはつい最近撮ったモノだけど、だいたいこんな感じ。ちなみにこのときは4時間ぐらいでこの状態になってた。そういえば実家のあたりって、真冬にはほぼ毎朝マイナスの氷点下だし、放射冷却を起こすとマイナス5℃とかマイナス6℃とかになることもあるっていうのを忘れてた。
チンクエチェントは1950年代の基本設計。当然ながらエアコンなんてものがクルマに標準で備わるようになる遙か以前にデビューしてるわけだ。クルマに初めてエアコンが取りつけられるようになったのは、確か1954年のナッシュ[アンバサダー。温水式のヒーターとトランクにコンプレッサーをマウントしたクーラーをひとつにまとめたシステムで、それなりのスペースを必要とした。車体がそこそこ大きい、今でいうところのラグジュアリーモデルだからこそ搭載が可能だったわけだ。フィアットはチンクエチェントにエアコンを与えることなんて考えてなかっただろうけど、考えてたとしても物理的に無理だっただろう。
革1枚で冷たさはやわらげられる
そういうわけだからして、真冬にゴブジ号を走らせるときにまず必須なのは、ドライビンググローブをすること。樹脂製のステアリングがやたらと冷たいのだ。幸いなことに、僕は日本で唯一といえるドライビンググローブ専門メーカーにして世界でもトップクラスのクオリティとフィーリングを誇る、CACAZANのものを愛用してる。CACAZANについてはまたあらためてキッチリと紹介させていただくつもりでいるけれど、革1枚で冷たさはかなりやわらぐものだ。
いや、チンクエチェントにまったく空調装置がないというわけじゃない。ヒーターは備わってる。エンジン冷却のために利用されて温まった空気を、ダクトを通して車内に取り込むというとても原始的なヤツが。ダッシュボードの下、運転席と助手席の膝の奥の方にそれぞれセンタートンネルからのダクトが伸びていて、そこにチョコンとついてるダイヤルをクリッと回すことで蓋が開き、そこから温風が足元に流れてくる、という仕組みだ。
リアシートとセンタートンネルの境辺りに黒い小さなレバーがあって、その先っぽが前を向いてるときにはフラップが閉じていてOFF、運転席から手を伸ばしてそれを右に動かすとフラップが開いてヒーターON、と操作方法はいたってシンプル。温度調整? そんなものはない。レバーを右に動かすときに半分ぐらいで停めるとフラップも半分ぐらいまでしか開かないはずで、もしかしたらそれで温風を送る量が変わったりするのかもしれないが、フラップを全開にしたときとの差を僕は感じたことがない。膝奥のダイヤルは途中で停めることもできて、その場合は蓋も半開きで停まるから、爪先が寒いときには半開きでそちらに温風を向けて、爪先がほどほどに温まったら蓋を全開にして車内全体を温める、みたいな感じで使ってる。
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