ブランド新時代を体現するコンセプトカー
そこそこ売れるけれども儲からないブランドになってしまったジャガーが、巻き返しを図るべく大胆な「Reimagine(リイマジン=再構想)」戦略を行いました。本社テクニカルセンターで新ブランド戦略のプレゼンテーションとともに、そのシンボルとなる「タイプ00」をじっくりと観察。新時代に向けたジャガーをレポートします。
ジャガーはどこへ向かうのか
年間6.8万台。2023年におけるジャガーの販売台数である。この数字をどう捉えるか。たとえばフェラーリは年間1.4万台、ポルシェは32万台。いずれも業績は好調というから、要するに販売台数だけでは判断できない。会社の規模もいろいろなのだ。ゆえに1台あたりの利益をいかに高めていけるか。それがプレミアムブランドの戦略を語るうえで最も大事な要素のひとつになる。
ジャガーブランドの認知度は、少なくともクルマ好きのなかでは上位に位置づけられるはずだ。だから7万台規模でもビジネスを続けることは十分にできるだろう。実際、同門のレンジローバーやディフェンダーは合わせて10万台規模ながら大きな利益を上げている。ではなぜ、今のジャガーが瀕死の状態に陥っていると言われるのか。それはやはり売れ線モデルの価格帯である。
ジャガーとほかのJLR(ジャガーランドローバー)ブランドとの違いは明らかで、ランドローバー「レンジローバー」を買おうと思えば2000万円を超えてくるし、「ディフェンダー110」でも1000万円超えだ。対してジャガーの売れ線(セダンやSUV)はおおむね1000万円以下。この差は大きい。
とはいえ、今の路線を続けていく限り、そうやすやすと価格帯を引き上げることは難しい。レンジローバーは上手くいったけれど、同じような戦略をとってきたにも関わらずジャガーは失敗した。フラッグシップモデル(ジャガーなら「XJ」)の位置付けを読み間違えたからだ。頂上を引き上げない限り裾野は広がらない。結果、ジャガーはそこそこ売れるけれども儲からないブランドになってしまった。英国で最も有名かつ人気のある老舗ブランドのひとつであったというのに……。
自らのヘリテージにも影響されないほどの大胆さ
ブランド力がまだあるうちに、そしてJLR(ジャガーランドローバー)社としての業績が好調なうちに、抜本的な対策を採ろう。それが今回の大胆な、そして騒動を巻き起こした「Reimagine」戦略の大まかな背景である。
ロゴからマーク、ジャガーシンボル、コーポレートカラーイメージ、とにかく全てを変えてきた。そしてもちろん、クルマそのものも、販売の現場も、サービスのクオリティも全て変える予定だ。メインテーマは「Copy nothing」。何者にも似ない。外部はもちろん自らのヘリテージにも影響されないほどの大胆さ、だと言っていい。
変革とヘリテージのバランス感覚
そのシンボルとなるべきコンセプトデザインがマイアミデザインウィークで披露された「タイプ00」である。筆者は2024年12月にマイアミで披露される前に英国ゲイドンの本社テクニカルセンターで新ブランド戦略のプレゼンテーションを受け、実車もじっくりと観察してきた。
グループの新しいフルバッテリー駆動アーキテクチャーを使うBEVである。昨今、BEVを取り巻く環境は急激に悪化しているが、少なくともジャガーの首脳陣はラインナップのフルBEV化に今なお迷いはなさそうだ。「信念を貫く」。彼らはことあるごとにそう付け加えた。
デザインコンシャスであることはいうまでもない。比較的レイアウト自由度が高いと言われる大型のBEVながら、古典的なロングノーズとチョップドルーフ、バタフライドアをもち、その一方でリアから眺めればウィンドウが廃されているなど、野心的なデザインであることは間違いない。