クルマ運転好きの選ぶべき最右翼のスーパーカー
マクラーレン・ブランドの主力モデルとしてデビューしたプラグインハイブリッド車「アルトゥーラ」のオープンモデル「アルトゥーラ スパイダー」を、モータージャーナリスト西川 淳氏が東京〜京都で試乗しました。EV走行も意外と楽しい、軽量スーパースポーツの実力とは?
スパイダー登場に合わせてクオリティがさらに向上
マクラーレン「アルトゥーラ」は2022年にブランドの主力モデルという位置づけでデビューした。注目すべきは新開発のプラグインハイブリッドパワートレインを搭載したこと。120度V6ツインターボ+電気モーター+バッテリーという構成は後にフェラーリも追従することになる。
とはいえ、簡単ではなかった。マクラーレンは今や2シーターのリアミドシップのみをラインアップするという唯一の独立系メーカーだ。ごく少量限定のモデルならともかく、シリーズモデルの量産においてはかなりの労力が必要となる。なかでもバグとの戦いとなる制御システムの安定化には相当てこずったよう。市場投入後もクオリティが安定するまでに多少の時間を要した。
アルトゥーラでは他にも新たな取り組みがあった。マクラーレン製スーパーカーの肝心要となるカーボンファイバーモノコックボディを自社工場で生産することになったのだ。電動化も併せて茨の道を進む覚悟があったのだろうと推察する。
そんなアルトゥーラもスパイダー登場を機にクオリティが随分と上がってきた。パワートレインの性能もさらにグレードアップし、ブランドの中核モデルとしてようやく安定してきたと言っていい。
ルーフの開閉時間はわずか11秒
クーペからスパイダーへと変更する手法そのものはこれまでの「720S」や「750S」と変わらない。カーボンボディゆえにルーフまわりのデザイン自由度は高く、透明のリアバットレスを採用するなど個性を出すことにも成功した。スーパーカーをドライブすると斜め後ろの視界が悪いことも多い。透明なバットレスは実用的でもあった。
ルーフの開閉時間はわずか11秒。車速50km/h以下であれば走行中も可能、という便利さもまた従来通りだ。透明度を変更できるエレクトロクロミックガラスルーフをオプションで選ぶこともできるが、せっかく軽く仕上がったモデルに是が非でも必要な装備かどうか。
事前に少し乗った時には全体的に完成度の上がった感覚がはっきりあった。今回、改めて京都までのロングドライブを試すにあたり、とくに電気系マネジメントの仕上がりを確認しておきたいと思った。
速度が増すにつれ高まるドライバーとのエンゲージメント
高速に入った。速度を上げていくにつれて車体が路面に吸い付いていくように走る。それでも乗り心地の良さは変わらない。さらに驚くべきことに、ドライバーとのエンゲージメントは速度が増すにつれ一層強くなってゆく。
それゆえ、鋭い中間加速もまた“よろこび”でしかない。強固で軽量なカーボンボディゆえの瞬発力は、マシンと一体となったドライバーに他のモデルでは味わえない加速の快感をもたらす。どの速度域でも同じようなフィールを味わえるから、ロングドライブでも飽きるということがない。
じつはこの人馬一体感は、たとえ高速の流れが悪くなってしまってもドライバーに上々の気分をもたらす。速度域に関係なくマシンと一体になって走る感覚は、着心地のいいスーツを着ている気分だからだ。ゆっくり走っていてもウキウキする。
オープンエアドライブは、やっぱり楽しい
肉体的にはもちろん、精神的にもさほど疲れることなく京都インターを降りた。自宅に戻る前に、いつものホームワインディングコースを走って帰ろう。疲れていないから、450kmのドライブの後でもそんなふうに思える。
それにしてもこのボディサイズは捨てがたい。スーパーカー界も大型化の波が押し寄せているが、アルトゥーラのサイズがじつはドライバーとして安心できる正味の限界だと思う。制御の工夫によってどんな大きさでも一体感を与えることができる時代になったけれど、物理的に小さいことのメリットは揺るがない。峠道でもまた、頑張っても頑張らなくても、楽しいひと時を過ごすことができた。頭上に冷たい風を感じながらのオープンエアドライブは、やっぱり楽しいものだ。
新時代のベスト・オブ・スポーツカー。重いバッテリーを積んでもその領域にとどまることに成功したアルトゥーラスパイダーは、クルマ運転好きの選ぶべき最右翼のスーパーカーであろう。