3億ポンドを投じグッドウッドの本社工場を拡張
ロールス・ロイスは2025年1月8日、英国グッドウッドの製造施設を拡張するために3億ポンド(約577億円)を超える投資を行うと発表しました。この投資により、ビスポークやコーチビルドのより複雑で高付加価値な製品の生産能力が強化されます。2024年は同社史上3番目の販売実績を達成。また1台あたりのビスポークの価値が前年比10%増加し、過去最高を記録しました。ロールス・ロイスのビスポークに関わる活動を紹介します。
工場開設以来、過去最大規模の資本注入
ロールス・ロイス・モーターカーズは、英国グッドウッドの製造施設を拡張するために3億ポンド(約577億円)を超える投資を行うことを発表した。これは、最も複雑かつパーソナルで価値あるラグジュアリー製品を手作業で製作し、比類なき体験を顧客に提供することで、価値を創造するという同社の取り組みが次のステップに進んだことを示す。ビスポークで過去最高の成果を達成するとともに、同社史上3番目となる販売台数を記録した2024年の同社の業績は、このアプローチの成功を裏付けるものとなる。
この拡張により、ラグジュアリーを深く個人的なものと定義する顧客が求める、ますます複雑で高価値なビスポークおよびコーチビルドのプロジェクトのためのスペースが確保される。また、完全電気自動車(BEV)への移行に向けて、製造施設の準備も整えられる。
この3億ポンドを超える投資は、2003年1月1日の工場開設以来、過去最大規模の資本注入となる。当時の従業員は約300名で、1日わずか1台の自動車を生産していた。グッドウッド製造工場の内部は過去20年間に大きな変化を遂げたが、建物自体はほとんど変わっていない。一方、従業員数は8倍以上の約2500人に増加し、現在では1日あたり最大28台の自動車が生産されている。
ビスポーク内容の金額が前年比10%増
2024年、ロールス・ロイス・ビスポーク・コレクティブの専門デザイナー、エンジニア、職人たちは、これまでで最も創造性に富み、大胆かつ技術的に難易度の高い注文を手がけた。これらのプロジェクトには、前例のない革新的な素材、工芸技法、機能が取り入れられ、顧客の興味や個性を真に映し出す唯一無二で感情に訴えかけるマスターピースが生み出された。
同社のビスポーク・サービスは、2024年に1台あたりのビスポーク内容の金額は前年比で平均10%増加し、史上最高レベルに達した。この記録的な成果は、パーソナライズされた製品と体験を通じて顧客に価値を創造し、意義深いパーソナルな表現の機会を提供するというロールス・ロイスの長期的な戦略的焦点によるものだ。これらの取り組みは、壮大な自然現象やブランドのヘリテージ、大切な人生の節目やクラシック映画など、多岐にわたるテーマからインスピレーションを得ている。
職人たちは、18金の金彫刻、86万9500ステッチを超える精巧な刺繍、500点以上のパーツで構成された繊細な寄木細工、魅惑的なマザー・オブ・パール(真珠母貝)のアートワーク、ホログラフィック・ペイント仕上げなど、現代工芸の卓越した技術を駆使し、精巧なディテールを生み出した。
ビスポーク注文の多いモデル第1位はファントム エクステンデッド
なかでも「ファントム エクステンデッド」は、1年を通じて最も幅広いビスポークの注文を受けたモデルである。また、2024年に納車が本格化した「スペクター」は、1台あたりのビスポークの内容が2番目に高いレベルを記録した。地域別では、1台あたりのビスポークの平均価格が最も高かったのは中東で、北米と欧州がこれに僅差で続いた。
ロールス・ロイスのビスポークの頂点を極めるコーチビルドは、2024年に「アルカディア ドロップテイル」を発表した。これは、4台のコーチビルド・ドロップテイルの傑作のうちの1台で、同社が過去に製作した「スウェプテイル」と「ボートテイル」に続くものだ。
比類なき顧客体験を提供
ロールス・ロイスのビスポークへのこだわりは、グッドウッドで高度にパーソナライズされた体験を世界中の顧客に直接提供するプライベートオフィスにも反映されている。2024年には、既存のドバイと上海のオフィスにニューヨークとソウルが加わり、このVIPスペースのグローバル・ネットワークが拡大した。
グッドウッドにあるオリジナルのプライベート・オフィスにインスピレーションを得たこれらのクリエイティブなハブは招待制で、各拠点に専属のデザイナーおよびクライアント・エクスペリエンス・マネージャーが常駐し、顧客と緊密に連携しながら創造的なコラボレーションをする。この特別な体験は顧客から高く評価されており、ロールス・ロイスのビスポークの可能性を最大限に活用できることから、プライベート・オフィスでのオーダーは通常よりも25%高いものとなっている。
AMWノミカタ
3億ポンドの設備投資が生産台数を増やすためのラインの追加などではなく、ビスポークやコーチビルドに対応するための投資が主であることに驚く。ロールス・ロイスはビスポークにいち早く鉱脈を見つけ、それを突き詰めてきた。その素材選びから製造技術まで、他ブランドを寄せ付けない圧倒的な力は誰もが認めるところだろう。
そしてその経験の積み重ねが、1台あたり25%も高く販売できる価値を生み出す。ちょっとしたオリジナルの刺繍や特別色を提供する程度のビスポークでは肥えた顧客の目は欺けない。そのことを当然知っているロールス・ロイスは世界中にプライベート・オフィスを展開し、最も要求レベルの高い顧客の難しい注文を受ける「挑戦の場」として活用している。カスタマーと真剣に向かい合い、自らの技術力を高めるためのいわば「出稽古」を積み重ねているのである。今回の3億ポンドの投資の先には、他ブランドをさらに引き離すどのような秘策が隠されているのか楽しみである。