カルト? それとも時代を超えた魅力? BMW Z1
英国最大級の見本市会場、バーミンガムの「NEC(National Exhibition Centre)」では、こちらも英国では最大規模となるクラシックカーのトレードショー、その名も「Classic Motor Show」が、毎年11月に開催されることになっています。2024年11月8日〜10日に開催された前回は、英国の新興オークションカンパニー「アイコニック・オークショネア」社がオフィシャルオークション「The Iconic Sale at the NEC Classic Motor Show 2024」を、大会中日となる11月9日に実施。ヤングタイマー・クラシックカーを中心とした約160台の出品ロットの中から、今回はカルトな英国人エンスージアストが愛してやまないといわれるBMW「Z1」を俎上に載せ、そのあらましとオークション結果についてお伝えします。
いまや人気のコレクターズアイテム! BMW Z1とは?
BMWの誇る一連の「Z」ロードスターの中でも、「Zukunft(未来)」のタグがもっとも相応しいのは、その開祖ともいうべき「Z1」にほかなるまい。Z1のテクノロジーとデザインでは、あらゆる面に当時の「最先端」が見てとれるのだ。
Z1では、ボディパネルをマウントする骨格フレームを採用することにより、当時としては驚くべき剛性を実現。スカットルシェイクを抑え、優れたハンドリングを実現した。脱着可能なサイドパネルとドアは、米ゼネラル・エレクトリック社の「ゼノイ・インジェクションキャスト」射出成型熱可塑性プラスチック製で、ボンネットとトランクリッドはFRP製。溶融亜鉛メッキを施したプレススチールの下部構造に取り付けられるとともに、継ぎ目は連続的に亜鉛溶接され、ボディ剛性を25%向上させたという。
また、英語圏での愛称「Drop-Door」の由来となっている昇降式ドアは、ボタンを押すだけで窓とドアの両方が下がるコッグドベルトで操作される仕組みとされた。
巧みな空力テクノロジーも特徴
いっぽうパワーユニットは、E30系「325i」から流用された直列6気筒SOHC「M20B25」型。ゲトラグ社製の5速MTも「3シリーズ」からの流用。0-100km/h加速タイム7.9秒で最高速度225km/hという、なかなかの高性能車であった。
また、リアに革新的な「Zアクスル」サスペンションを採用し、ホイール前方に高圧ゾーンを設けてダウンフォースを誘発するかたわら、エアロフォイル形状のリアサイレンサーが乱気流と揚力の低減に貢献するなど、巧みな空力テクノロジーも特徴としている。
BMW Z1はかなり実験的な要素が強いモデルゆえに、生産開始までに2年近い期間を要したにもかかわらず、実質的な生産期間は約2年。生産台数も約8000台に終わってしまう。
しかしZ1はあらゆる意味で特別な存在であり、年月が経つにつれてマーケット価値がグングンと上昇し始めていることも、また否めない事実なのだ。
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長年にわたりBMW正規ディーラー内で展示されてきたヒストリー
さる2024年11月9日「The Iconic Sale at the NEC Classic Motor Show 2024」オークションに出品されたZ1について、アイコニック・オークショネアの公式カタログでは新車時から英国に至るまでの来歴については触れていない。
しかし、1972年から2024年まで英国ミッドランズ地域を中心に大規模なBMWディーラーネットワークを構築していた「ライデール/ライブルック」社が、BMWの発展における重要かつ興味深いマイルストーンとして2000年代初頭に入手したことは判明しているようだ。
ちなみにライデール/ライブルック社は2024年に売却され、現在では日本の「ニコル・グループ」と同様、アメリカの名門レースチームオーナー、ロジャー・ペンスキー氏が会長を務める「シトナー・グループ」の子会社になっているとのことである。
自信満々のエスティメートだったが……
現在でも、主にBMWディーラーやBMW関連のショー展示に供用されていることから、オークション公式カタログ作成時点での走行距離は、わずか3361マイル(約5380km)に過ぎない。
これまでつねに屋内保管され、定期的なメンテナンスを施され、年に1度の車検を受けている。したがって、オドメーターが示す走行距離は正しいものと保証できるうえに、新車からのオーナーはわずか2名に過ぎないとのこと。ただし、社名変更にともないV5C車検証の名義は変更されているという。
「この個体は、非常にスムーズな2.5Lライトシックスにマニュアルギアボックスを組み合わせた、このモデルの純粋な1台であり、この時代における“究極のドライビングマシン”のひとつであり続けている」と自社の公式カタログで謳っていたアイコニック・オークショネア社では、圧倒的に少ないマイレージに自信を得たのか、5万ポンド~6万ポンド(当時のレートで約945万円〜約1134万円)という、英国におけるこのモデルとしてもかなり強気のエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、バーミンガムNECの5号棟で行われた競売では、売り手サイドの期待していたほどにはビッド(入札)が進まず、終わってみれば4万3875英ポンド、当時のレートで日本円に換算すれば約829万円で、競売人のハンマーが鳴らされることになったのである。