1984年式 メルセデス・ベンツ 500SL
「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回は、1970年代~1980年代にメルセデス・ベンツ唯一のオープンモデルとして君臨したR107系「SL」をピックアップし、そのあらましと注目のドライブフィールについてレポートします。
R107系はメルセデスSLの新時代を築いた名作
メルセデス・ベンツがR107系「350SL」をデビューさせた1971年春、その社会的背景には多くのネガティブ要素があった。オイルショックや排ガス対策、パッシブセーフティ問題など、自動車という乗り物にとって、そしてメルセデス「SL」シリーズにとっても受難の時代が訪れようとしていたのだ。
そのいっぽうで、さらに高まりつつあった高性能&快適志向の風潮は、伝統的にV8エンジンを熱望する北米マーケットの要求、あるいは排ガス対策でパワーダウンを余儀なくされる分を補うこともあわせて、すでに「280SE」やそのクーペ/カブリオレ版では生産されていたV8エンジンへのスイッチが待ち望まれていた。
このような状況とマーケットの要求のもと、当時のダイムラー・ベンツ社は文字どおりの「ドル箱」だったSLシリーズに、8年ぶりとなる完全リニューアルを図らせることになる。
このフルモデルチェンジでは、ホイールベースが60mm延長されるなど、ボディは従来のR113型SL(当時は「W113」と呼ばれた)より大型化されたかたわら、当時世界各国の自動車メーカーがチャレンジした「ESV実験車」のテクノロジーも随所に生かされ、パッシブセーフティ対策には大いに気が遣われていた。
いっぽう、R107系ファーストモデルである350SLに搭載されたのは、3.5Lの排気量から最高出力200psを発生するV8・SOHCユニット。このエンジンがもたらすパフォーマンスは、当時のパーソナルカーとしては目をみはらせるものだったという。
ブラッシュアップを繰り返し18年にわたり生産されたロングセラー
こうして誕生したR107系SLシリーズは、エレガントなスタイリングと卓越したエンジニアリングを併せ持つと評され、セールスも上々のものだった。ところが、安全政策の施行によりフルオープンカーが最大市場たる北米で販売できなくなる……? という疑心暗鬼的な観測が1970年代~1980年代の自動車界に蔓延したことによってモデルチェンジの機会を逸してしまい、結果としてマイナーチェンジやブラッシュアップが繰り返されてゆく。
デビューから2年後の1973年、350SLは4.5Lにエンジンを拡大した「450SL」に取って代わられるとともに、翌1974年には「コンパクトクラス(現代のEクラス)」の「280E」や「Sクラス」の「280SE」などと同じ、直列6気筒DOHCエンジンを搭載したエントリーモデル「280SL」も追加。さらに1980年には、新世代のアルミブロックV8エンジンを搭載した450SLの後継車「380SL」にくわえて、新たに「500SL」が最上級モデルとして誕生することになる。
こうして半ば当然のごとく、R113系に匹敵するヒット作となったR107系SLは、安全性の確保に喘いでいた他のフルオープン車両が続々とフェードアウトしてゆくなか、数少ない例外として生き延びることに成功。1980年代中盤、バブル景気の兆しを見せはじめていた日本においても絶大な人気を博した。
そして1986年になると、380SLは4.2Lの「420SL」へと進化するいっぽう、北米や日本など、排ガス対策の厳しかったマーケットのために、500SLの排気量をさらに拡大した「560SL」も追加設定(500SLは欧州市場で継続販売)。また、280SLの後継モデルとして新世代の直6・SOHCエンジンを搭載する「300SL」へと最終進化を果たしたのち、1989年に後継R129系SLへとようやくのモデルチェンジ。メルセデス・ベンツとしては当時最長、18年間にもわたって生産されるロングセラーとなったのである。