「ランデヴー」で大々的なレストアを施したばかりの個体
R107系SLは、リチャード・ギア主演の映画『アメリカン・ジゴロ』(1980年公開)や、エディ・マーフィの大ヒット作『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年公開)において、豊かで華やかな生活を象徴するアイコン的存在として出演。わが国においても、シンガーソングライター浜田省吾氏の大ヒット曲「Money」(1984年発売)の歌詞に登場する「純白のメルセデス」は、R107系SLを想定していた……? というのが定説となっているそうだ。
そんな「伊達な」クルマということで、明らかにクルマに負けてしまいそうな筆者は若干気おくれしつつ、今回のテストドライブに臨むことになった。
この「旧車ソムリエ」取材にあたり、夢のクルマを共同購入・所有するという画期的なプロジェクトを展開して大成功を収めているスタートアップ企業「RENDEZ-VOUS(ランデヴー)」から提供いただいたのは、1984年式の500SL。先ごろ、じつに総費用1000万円を投じて大々的なレストアが施されたばかりという個体である。
この時代には、排ガス対策への対応のため排気量を拡大された560SLが日本国内に正規導入されていたのに対し、500SLは欧州を中心とするマーケットでの販売。取材車両も、もともとは新車並行輸入で日本に上陸した本国仕様とのことである。
取材当日はかなり寒かったものの、せっかくの伊達なSLなので、ソフトトップを畳んでドライブすることに。やたらと重いドアを閉めてコクピットに座った早々から、たとえば金属の縁取りの入った豪奢なウッドパネルや、分厚いレザーのシートに圧倒されつつも、意を決してキーを捻る。すると、インジェクション制御のエンジンはつねに一発始動し、すぐさま安定したアイドリングに入る。
メルセデスは今も昔も、ほぼすべてのモデルがおおむね同じ操作体系となっており、ハンドブレーキの解除レバーなどを確認すれば即座に走り出せる。そして、独特のスタッガードを描くシフトゲートをなぞるごとくATセレクターを「コココ」とDレンジに移動し、驚くほどに重いスロットルを踏み込めば、音もなくスムーズにスタートする。
「走る・曲がる・停まる」のすべてが現代車にも匹敵するレベル
そして広い道に出てアクセルをさらに踏めば、排ガス対策が軽度なフルパワーの欧州仕様5.0L・V8エンジンが示す迫力あるトルク感や吹け上がりとともに、現代のメルセデスでもなかなか味わえないであろう、古典的かつ普遍的な魅力を存分に体感させてくれる。
ただし、アクセルを深めに踏み込んでも同時代のアメリカンV8や、現代のAMG製V8のような荒々しい咆哮はまったく聴こえてくることなく、まるでW116やW126系Sクラスセダンのような静粛性。3000rpmを超えたあたりで、ようやく「ロロロロ」というハミングのような排気音が聴こえてくる程度で、ソフトかつ重厚な乗り心地も相まって、メルセデスとしても最上級の快適性が享受できる。
このフルパワーに気を良くして走らせていると、このクルマの走りの本質のようなものが見えてくる。1990年代中盤までのメルセデスの通例だったボール循環式のステアリングは、スポーツカー的なアジリティとは無縁。スポーティモデルであるSLでは、独特のネットリとした重さを示しながらも油圧のパワーアシストは安定しており、つねに正確無比な操舵フィールを味わわせてくれる。
また、ブレーキも踏力は重めながら、制動力自体は現代車に大きく引けを取ることはない。つまり「走る・曲がる・停まる」が、すべて時代を超えたレベルにあるのだ。
独特の絢爛たる雰囲気、そして何よりメルセデスがオーバークオリティだった時代を味わうことのできるR107系SLは、やはりこの時代を代表する1台と断じて間違いあるまい。
現在は、先代R113系などの人気に引っ張られるかたちで、クラシックカーとしての評価も爆上がり。世界中のエンスージアストから愛される、真のコレクターズアイテムとなりつつあるのも、まさしく納得至極なのである。
■RENDEZ-VOUS
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