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18年も作られたメルセデス・ベンツR107系に試乗!「500SL」はバブル感強めの伊達でゴージャスなロードスターでした【旧車ソムリエ】

メルセデス・ベンツ R107系 500SL:まるでW116やW126系Sクラスセダンのような静粛性で、ソフトかつ重厚な乗り心地も相まって、メルセデスとしても最上級の快適性が享受できる

1984年式 メルセデス・ベンツ 500SL

「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回は、1970年代~1980年代にメルセデス・ベンツ唯一のオープンモデルとして君臨したR107系「SL」をピックアップし、そのあらましと注目のドライブフィールについてレポートします。

R107系はメルセデスSLの新時代を築いた名作

メルセデス・ベンツがR107系「350SL」をデビューさせた1971年春、その社会的背景には多くのネガティブ要素があった。オイルショックや排ガス対策、パッシブセーフティ問題など、自動車という乗り物にとって、そしてメルセデス「SL」シリーズにとっても受難の時代が訪れようとしていたのだ。

そのいっぽうで、さらに高まりつつあった高性能&快適志向の風潮は、伝統的にV8エンジンを熱望する北米マーケットの要求、あるいは排ガス対策でパワーダウンを余儀なくされる分を補うこともあわせて、すでに「280SE」やそのクーペ/カブリオレ版では生産されていたV8エンジンへのスイッチが待ち望まれていた。

このような状況とマーケットの要求のもと、当時のダイムラー・ベンツ社は文字どおりの「ドル箱」だったSLシリーズに、8年ぶりとなる完全リニューアルを図らせることになる。

このフルモデルチェンジでは、ホイールベースが60mm延長されるなど、ボディは従来のR113型SL(当時は「W113」と呼ばれた)より大型化されたかたわら、当時世界各国の自動車メーカーがチャレンジした「ESV実験車」のテクノロジーも随所に生かされ、パッシブセーフティ対策には大いに気が遣われていた。

いっぽう、R107系ファーストモデルである350SLに搭載されたのは、3.5Lの排気量から最高出力200psを発生するV8・SOHCユニット。このエンジンがもたらすパフォーマンスは、当時のパーソナルカーとしては目をみはらせるものだったという。

ブラッシュアップを繰り返し18年にわたり生産されたロングセラー

こうして誕生したR107系SLシリーズは、エレガントなスタイリングと卓越したエンジニアリングを併せ持つと評され、セールスも上々のものだった。ところが、安全政策の施行によりフルオープンカーが最大市場たる北米で販売できなくなる……? という疑心暗鬼的な観測が1970年代~1980年代の自動車界に蔓延したことによってモデルチェンジの機会を逸してしまい、結果としてマイナーチェンジやブラッシュアップが繰り返されてゆく。

デビューから2年後の1973年、350SLは4.5Lにエンジンを拡大した「450SL」に取って代わられるとともに、翌1974年には「コンパクトクラス(現代のEクラス)」の「280E」や「Sクラス」の「280SE」などと同じ、直列6気筒DOHCエンジンを搭載したエントリーモデル「280SL」も追加。さらに1980年には、新世代のアルミブロックV8エンジンを搭載した450SLの後継車「380SL」にくわえて、新たに「500SL」が最上級モデルとして誕生することになる。

こうして半ば当然のごとく、R113系に匹敵するヒット作となったR107系SLは、安全性の確保に喘いでいた他のフルオープン車両が続々とフェードアウトしてゆくなか、数少ない例外として生き延びることに成功。1980年代中盤、バブル景気の兆しを見せはじめていた日本においても絶大な人気を博した。

そして1986年になると、380SLは4.2Lの「420SL」へと進化するいっぽう、北米や日本など、排ガス対策の厳しかったマーケットのために、500SLの排気量をさらに拡大した「560SL」も追加設定(500SLは欧州市場で継続販売)。また、280SLの後継モデルとして新世代の直6・SOHCエンジンを搭載する「300SL」へと最終進化を果たしたのち、1989年に後継R129系SLへとようやくのモデルチェンジ。メルセデス・ベンツとしては当時最長、18年間にもわたって生産されるロングセラーとなったのである。

「ランデヴー」で大々的なレストアを施したばかりの個体

R107系SLは、リチャード・ギア主演の映画『アメリカン・ジゴロ』(1980年公開)や、エディ・マーフィの大ヒット作『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年公開)において、豊かで華やかな生活を象徴するアイコン的存在として出演。わが国においても、シンガーソングライター浜田省吾氏の大ヒット曲「Money」(1984年発売)の歌詞に登場する「純白のメルセデス」は、R107系SLを想定していた……? というのが定説となっているそうだ。

そんな「伊達な」クルマということで、明らかにクルマに負けてしまいそうな筆者は若干気おくれしつつ、今回のテストドライブに臨むことになった。

この「旧車ソムリエ」取材にあたり、夢のクルマを共同購入・所有するという画期的なプロジェクトを展開して大成功を収めているスタートアップ企業「RENDEZ-VOUS(ランデヴー)」から提供いただいたのは、1984年式の500SL。先ごろ、じつに総費用1000万円を投じて大々的なレストアが施されたばかりという個体である。

この時代には、排ガス対策への対応のため排気量を拡大された560SLが日本国内に正規導入されていたのに対し、500SLは欧州を中心とするマーケットでの販売。取材車両も、もともとは新車並行輸入で日本に上陸した本国仕様とのことである。

取材当日はかなり寒かったものの、せっかくの伊達なSLなので、ソフトトップを畳んでドライブすることに。やたらと重いドアを閉めてコクピットに座った早々から、たとえば金属の縁取りの入った豪奢なウッドパネルや、分厚いレザーのシートに圧倒されつつも、意を決してキーを捻る。すると、インジェクション制御のエンジンはつねに一発始動し、すぐさま安定したアイドリングに入る。

メルセデスは今も昔も、ほぼすべてのモデルがおおむね同じ操作体系となっており、ハンドブレーキの解除レバーなどを確認すれば即座に走り出せる。そして、独特のスタッガードを描くシフトゲートをなぞるごとくATセレクターを「コココ」とDレンジに移動し、驚くほどに重いスロットルを踏み込めば、音もなくスムーズにスタートする。

「走る・曲がる・停まる」のすべてが現代車にも匹敵するレベル

そして広い道に出てアクセルをさらに踏めば、排ガス対策が軽度なフルパワーの欧州仕様5.0L・V8エンジンが示す迫力あるトルク感や吹け上がりとともに、現代のメルセデスでもなかなか味わえないであろう、古典的かつ普遍的な魅力を存分に体感させてくれる。

ただし、アクセルを深めに踏み込んでも同時代のアメリカンV8や、現代のAMG製V8のような荒々しい咆哮はまったく聴こえてくることなく、まるでW116やW126系Sクラスセダンのような静粛性。3000rpmを超えたあたりで、ようやく「ロロロロ」というハミングのような排気音が聴こえてくる程度で、ソフトかつ重厚な乗り心地も相まって、メルセデスとしても最上級の快適性が享受できる。

このフルパワーに気を良くして走らせていると、このクルマの走りの本質のようなものが見えてくる。1990年代中盤までのメルセデスの通例だったボール循環式のステアリングは、スポーツカー的なアジリティとは無縁。スポーティモデルであるSLでは、独特のネットリとした重さを示しながらも油圧のパワーアシストは安定しており、つねに正確無比な操舵フィールを味わわせてくれる。

また、ブレーキも踏力は重めながら、制動力自体は現代車に大きく引けを取ることはない。つまり「走る・曲がる・停まる」が、すべて時代を超えたレベルにあるのだ。

独特の絢爛たる雰囲気、そして何よりメルセデスがオーバークオリティだった時代を味わうことのできるR107系SLは、やはりこの時代を代表する1台と断じて間違いあるまい。

現在は、先代R113系などの人気に引っ張られるかたちで、クラシックカーとしての評価も爆上がり。世界中のエンスージアストから愛される、真のコレクターズアイテムとなりつつあるのも、まさしく納得至極なのである。

■RENDEZ-VOUS
https://app.rendez-vous.tokyo

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