フェラーリ F512 Mのマーケット相場は、今どうなっている?
フェラーリの歴史的傑作「テスタロッサ」とその係累は、わずか10年ほど前には比較的リーズナブルなマーケット相場で流通していたことをご記憶の方も多いと思います。しかし、昨今のヤングタイマー・クラシックカー人気を象徴するモデルのひとつとして市場は高騰。不人気だったはずの「F512 M」が、逆に超レア車として珍重されています。今回は、2025年1月25日にRMサザビーズ北米本社がアリゾナ州フェニックス市内で開催したオークション「ARIZONA 2025」に出品されていたフェラーリF512 Mを俎上に載せ、モデル概要とオークション出品に至るまでのヒストリー。そして注目のオークション結果について、お伝えします。
ボクサー12気筒エンジンを搭載した、最後のフェラーリ・ストラダーレとは?
1980年代に社会現象的な人気を得た「テスタロッサ」ファミリーの最終進化形、そして「512TR」に代わる新型車として1994年に発表された「F512 M」は、フェラーリの伝説的な180度V型12気筒エンジンを搭載した最後のミッドシップ市販モデルでもある。
接尾辞の「M」は「Modificato(モディファイした)」を意味するもの。1971年のトリノ・オートショーでピニンファリーナが発表した「365GT4/BBコンセプト」までさかのぼる名高い系譜の集大成として、あらゆる面が旧512TRからアップデートされて洗練された。チタン製コネクティングロッドや軽量化されたコンポーネントなど、エンジン内部の数々のアップグレードや圧縮比アップにより、エンジン出力は440psまで向上した。
エクステリアでは主にノーズとテールが刷新されたが、もっとも顕著な変更点は、従来のポップアップ式ユニットに代わって固定式ヘッドランプが採用されたこと。この進化によって、常時点灯を要求するアメリカの新法規に対応したほか、エアロダイナミクスも改善されたとのことである。またフロントのバンパー、およびテールライトまわりのデザインも刷新され、アロイホイールも1989年東京モーターショーにて「ピニンファリーナ」が世界初公開したデザインスタディ「ミトス(MYTHOS)」で試行された、スパイラル状のスポークを持つ新デザインのものが新たに装備された。
総計501台しか製造されなかったF512 M
いっぽうインテリアでは、こちらも新デザインのステアリングホイール、シフトレバーの合金製ノブ、調整可能なアルミニウム製フットペダル、改良されたエアコンシステムなどのトリム/ディテールが採用されたほか、オプションでスポーツシートも選ぶことができるようになった。
しかしこの時代、フェラーリではすでにFRレイアウトを採る「550マラネッロ」への移行が既定路線となっており、F512 Mの生産期間は2年間だけ。総計501台しか製造されず、デビューから30年を経た現在では、テスタロッサ愛好家やフェラーリ・コレクターの間でとくに切望されるモデルのひとつとして認知されているようなのだ。
テスタロッサ一族でもっともレアなF512 Mは、いまなお相場高騰中!
このほどRMサザビーズ「ARIZONA 2025」オークションに出品されたフェラーリF512 Mは、アメリカに正規輸入された個体。フロリダ州フォートローダーデールの「シェルトン・スポーツ・カーズ」社を介して、新車としてデリバリーされたものである。
ボディカラーは定番の「ロッソ・コルサ」、インテリアは「ベイジェ(ベージュ)」の本革レザーで仕上げられ、パワーウインドウや集中ドアロック、電動サイドミラー、アンチロック4輪ベンチレーテッドディスクブレーキ、5速マニュアルトランスミッション、リミテッドスリップディファレンシャル、エアコン、デジタルクォーツ時計、ステレオシステムなどの装備を満載し、マラネッロ工場からラインオフしたとのことである。
2018年1月に、今回のオークション出品者でもある現オーナーによって入手されたこのF512 Mは、2024年12月にエンジンを降ろしてフルサービスの恩恵を受けたばかり。12万2000ドル以上を費やしたというこの作業には、エンジンの分解・修理、さまざまな機械部品の交換と加工、純正ファクトリー仕様へのリビルドが含まれ、すべての作業の請求書はファイルに残されている。
フェラーリの真髄ともいえるカラースキームで仕上げられ、歴代オーナーによるメンテナンスも充分。そして、オークション公式カタログ作成時点の走行距離は2万2000マイル(約3万5000km)にも満たないという、F512 Mとしても最も好条件の1台と言えるだろう。
圧倒的な希少性こそが、依然として国際マーケットの趨勢をも左右している?
RMサザビーズ北米本社では「フェラーリの伝説的なボクサー12気筒エンジンを搭載した最後のミッドシップ生産車という重要性から、フェラーリファンの垂涎の的となっているこの希少なスーパーカーの、これ以上に魅力的な1台を見つけるのは難しい」というアピール文を添えつつ、42万5000ドル~45万ドル(邦貨換算約6672万円〜7065万円)という、ひところのF512 Mの相場感からは考えられないくらいに自信ありげなエスティメート(推定落札価格)を設定。
しかも2025年1月25日に迎えた競売では、エスティメート上限を大幅に上回る55万5000ドル、日本円にして約8350万円という驚くべき落札価格で、競売人の掌中のハンマーが鳴らされることになったのだ。
ちなみに2024年1月31日、同じRMサザビーズの欧州本社が開催した「PARIS 2024」オークションでは、比較的近い条件と思われるF512 Mが30万8750ユーロ、当時のレートで日本円に換算すると約5030万円で落札されている。今回との価格差には為替の変動はもちろん個体のコンディションやヒストリー、そして会場の盛り上がり具合などさまざまな要素が影響を及ぼしたのだろうが、いずれにしてもF512 Mがテスタロッサ・ファミリーのなかでも格別に高相場という図式は変わりあるまい。
ルックス上の変更点では好き嫌いが二分するF512 Mながら、やはり7177台が生産されたというテスタロッサの相場の約2倍。2280台の512TRに対しても大幅に高い相場価格は、総生産数501台のこの最終モデルが有する圧倒的な希少性こそが、依然として国際マーケットの趨勢をも左右していることを示す、なによりの証左なのだろう。