「ハチロク」だけがトレノじゃない
トヨタ「スプリンター」をベースとし、より走りを意識したスポーツ仕様が「スプリンタートレノ」。初代はTE27型が1972年3月に発売されました。「セリカ 1600GT」と同じ2T-G型エンジンを搭載し、オーバーフェンダーを標準装備し、当時の若者がその過激なスタイルに狂喜乱舞した光景が目に浮かびます。今回登場する筬島正治さんも、そんなスプリンタートレノに熱狂したひとり。48年も所有し続ける情熱や、現在に至るまでに経験した悲喜こもごもを紹介します。
クルマ好きの先輩たちと一緒に憧れたレビン/トレノ
「私が若いころ、よく一緒にいた先輩がスプリンター1400SRを欲しがっていたのです。でも、別の先輩の情報によれば、1600ccの2T-Gエンジンが載っていて、それよりももっと速いレビンとかトレノという車両があるらしいぞ、と。
そんな矢先に、その先輩達と一緒にいた時に、オーバーフェンダーを付けた2ドアクーペの車両を見かけました。それが、レビンかトレノかの区別はつきませんでしたが、あれは間違いなく噂で聞いていた本物だ! と。その瞬間に、私はひと目惚れをしたのです」
2024年10月6日に福岡県にあるあまぎ水の文化村で開催された「九州テンロク・ミーティング」の代表を務める筬島正治さんがトヨタ初代TE27型「スプリンタートレノ」を手に入れたのは18歳の頃。4年落ちの中古車を購入して、2024年で48年になるそうだ。筬島さんの情熱が、昭和、平成、令和と時間を重ねて、未だに絶やさずに持ち続けていることが素晴らしい。
「当時は10年ぐらい乗れればいいかなという感覚でした。その後、AE86型などにモデルチェンジをしていきましたが、乗れば乗るほどこのTE27型の良さに気づいたのです。その結果、ズルズルと所有し続けています」
純正新品パーツは入手不可能。それでも探し続けることが大切
愛車との48年間という時間は、決して順風満帆だったわけではない。大きなトラブルは7~8年前に遭遇した、交差点での右直事故だった。筬島さんは直進。相手は右折。衝突をできるだけ避けるために左へとハンドルを切った結果、右前の足まわりとフロントフェンダーが大破。足まわりの修理は問題なかったが、肝心のフロントフェンダーが入手できなかったという。
「純正の新品パーツが無いのです。ずっとネットオークションなどで部品を探しましたが、欲しいフェンダーを見つけるまで1年ほどかかりました。ボンネット、左右フェンダー一式を無事落札したことでこのように復帰できましたが、あれ以降、新品の純正フェンダーの出品は一度も見たことがありませんねぇ」
鈑金修理はできるだけ避けたい。大金を出せば、同じマニアから入手する術もあったが、愛車に費やせる予算にはどうしても限界はある。そのモヤモヤを抱えたまま、愛車は車庫で1年ほど眠ったまま。その状況が悲しくて、筬島さんは涙を流したこともあったそうだ。