チューニングされた「ヨタハチ」は「ノブハチ」だけではありません
通称「ヨタハチ」ことトヨタ「スポーツ800」を過激にチューニングしたオーナーといえば、レーシングドライバーの谷口信輝氏が有名です。谷口氏の愛車は、見た目はヨタハチですがエンジン、トランスミッション、足まわり、ボディ補強など、すべてが別次元の驚愕車。一方、今回紹介するイエローのスポーツ800は、見た目はノーマルですがインタークーラー付きターボを搭載。ヨタハチ愛47年というオーナーの1台を紹介します。
見た目は完全にノーマルを維持し、100馬力仕様を達成
22歳で人生初めてのトヨタ「スポーツ800」を購入してから、47年も経過するという山口さん。1969年式の最終型という最初の愛車は、現在も所有している。2024年10月27日に熊本県阿蘇市阿蘇門前商店街で開催された「トヨタスポーツ800還暦祭 九州大会」には、山口さんの娘さんがその最初の愛車を運転して参加。一方の山口さんは、ここで紹介するイエローのヨタハチで参加していた。
集合場所の瀬の本レストハウスで、ボンネットフードを開けた瞬間からできた人だかりの山。その理由は、エンジンにあった。
「ノーマルが45馬力。ホンダのS800は70ps。それならば、私のヨタハチは100psを目指そう! というのがテーマです。ダイレクトイグニッション仕様で、インタークーラーターボ付きで、そういうエンジンがあるよね、と。谷口信輝さんは4AGを搭載していましたが、それでは重量増加が心配だったのもあります。それと、私はノーマルのボディデザインが好きなので、見た目は完全にノーマルを維持することも重要でした」
ケータハム「スーパーセブン」などのチューニングを得意とする知り合いのショップに相談した結果、エンジンはスズキ「ワゴンRワイド」用をベースにすることが確定した。予定通りの1000cc、100ps仕様を達成しただけではなく、エアコン完備、リアサスは独立懸架など、現代の使用環境でも楽しめるようにファインチューニングが施されているのがポイントだ。
独学で鈑金修理を実施した苦心作
しかも、この愛車にまつわるエピソードは、それだけに留まらない。30年もバラバラのままだった個体を引き取り、しかもご自身で鈑金修理し、ボディの下地は自ら作り上げたという苦労も経験しているのが興味深い。
「以前のオーナーさんが、レストア予定でバラバラにして放置していたのは認識していました。その次のオーナーさんも、購入後そのまま。そして、その状態で私の友人が購入しましたが、そこでもバラバラのまま。計算すると、都合30年ほどパーツはオイルづけのままでバラバラでしたね」
その状態で山口さんの元に届いたのが7~8年前のこと。ボディはザクザクのボロボロ。パーツも何が揃っていて、何が必要なのかも分からない状態だった。それでもヨタハチを4台ほど所有していたこともあり、パーツはなんとかなりそう。でも鈑金補修にお金がかかりそうだということで、一念発起して、YouTubeで鈑金修理の勉強をし、自らボディ修理を実施したのだった。
コロナ禍のタイミングで、鈑金修理の毎日が続く
幸か不幸かそのタイミングでコロナ禍になったことで、外出することもできない状況に。その結果、朝から晩まで、鉄板を叩く日々がスタートした。
「朝8時から日付が変わる時間帯まで、毎日叩きました。何も知らない素人なので、鉄板は叩くと延びるということを知る。そこからのスタートです。ラッキーなことに、不要になった機材を持ってきてくれる人もいたりしたので。日中は鈑金。夜はYouTubeで勉強。毎日毎日、腐った部分を切って、鉄を叩いて、溶接してくっつける。それを1日も休むことなく、2年間も続けたのです」
こうして無事、ボディの下地作りは完了。塗装は友人に仕上げてもらい、とりあえずの状態は完成。車検も無事取得できたが、それまでの苦労に疲れ果てて、結局山口さん自身も前オーナーさんたちと同様に、放置プレイに。しかし、「このままではまずい!」と思い、前回開催された「トヨタスポーツ800生誕55周年祭」に合わせて、愛車に乗りはじめた。そして例のエンジン乗せ換えの予定もあったため、その作業を依頼した結果、現状で完成したのが、今回のイベントの3日前だった。
所有歴47年という愛情の深さが、人の繋がりも含めて実を結んだ結果。ノブハチにも負けない、ヨタハチの魔改造車が、こうして誕生したのである。
>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを1冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)