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アルピーヌの電動ホットハッチに乗ってわかった「BEVでも楽しめる繊細なドライビングの未来」…新型「A290」は「A110」に通じる感覚

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TEXT: 南陽一浩(NANYO Kazuhiro)  PHOTO: Renault S.A.

57 : 43という前後重量配分を実現

今回試乗したのはトップグレードの「A290 GTS」で、駆動モーターのスペックは220ps(160kW)/300Nm、前2輪を駆動するが、従来のICEのFFの宿痾を克服している。それはホイールベース内のフロアにバッテリーを収めたことで、57 : 43という前後重量配分を実現し、静的バランスごとホットハッチ=フロントヘビーのきらいを大きく改善したのだ。

ドライバーズシートに乗り込む際にも、A290の特徴がにじみ出る。ホットハッチというからにはハッチバックのはずだし、往年の「5 アルピーヌ」を彷彿させる外観だが、サイドシルがなかなかに高く、乗降性に差し支えるほどではないが、脚をもち上げて乗り込む感覚がある。これはもちろん剛性を兼ねるバッテリーを積むせいで、着座してからの視界もSUV未満だが明らかに一般のハッチバックより高い。昔ながらのルノーもしくはルノー・アルピーヌに共通する高めのアイポイントと周囲を広く見渡せる眺めは、どこか懐かしくもある。

しかしインテリアの質感は高く、素材やデザインも高品位で、令和らしさ全開だ。メーターパネルからドライバー側に少しチルトした10.1インチのセンターディスプレイ、そしてA110と共通するシフトコンソール上のRNDボタンは先進的な印象を与える。

一方で3本スポークステアリングから前後シート、そしてセンターコンソールまで覆ったブルーとホワイトのツートーンによるナッパレザーは、ホットハッチというより古典的なGTカーのコードを踏襲しているようだ。さらにステアリングスポークの上には、26ものADAS機能を擁するレベル2の運転支援システムのコマンドが配されている。スポーティな走りだけでなく、日常的な使い勝手の面でもガマンのない装備内容なのだ。

ちなみに荷室容量はオーディオシステムの装着/非装着に左右され300L/326Lと変化するが、サブウーファーを含め9つのスピーカーと、A290独自にして専用のデジタルプロセッサー技術を長年かけて開発したというドゥヴィアレ(フランスのハイエンド音響メーカー)のそれは、詳細は後述するが一聴の価値がある。

A110にも通じる走りの“近未来ホットハッチ”

0-100km/hは6.4秒、最大航続距離はWLTCモードで約380kmと、決して速くもアシが長くも見えないかもしれない。だがA290は加速Gやロングレンジで背伸びしたがるBEVではない。アクセルペダルの踏み込みに応じて加速Gと速度が自然に伸びていくような、アナログ風で右足裏にツキのいい加速フィールだ。

長すぎないペダル・ストロークと鈍過ぎないレスポンスは、微妙なアクセルワークを許容する操縦性重視の表れでもある。逆にステアリングホイール上にあるOV(オーバーテイク)ボタンを長押しすると、電気ならではの下支え加速が急に加わり、メーターディスプレイ上のアニメーションと相まって、まるでワープするかのような力強く未来的な加速が味わえる。どちらもこなせる懐深さをもち合わせているのだ。

しかもレイアウトも駆動方式も異なるのに、素直にノーズがインに切れ込むアンダーステア知らずのハンドリングで、ドライバーのヒップポイントすぐ傍に重心がある感覚は、A110に通じている。ただ水平に速く動くのではなく、積極的な荷重移動によって4輪の接地面そして姿勢変化をたっぷり感じながら、そのプロセスを能動的に楽しめるのだ。

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