進入時のアクセルオフで、積極的にテールを流すこともできる
全長3990mm×全幅1823mm×全高1512mmと決して車高は低くないが、低重心にして適度なロール感がある。さらには進入時のアクセルオフで、積極的にテールを流すこともできるが、フロントの舵の効きと駆動力オンでの収まりもいい。タイムを稼がせる以上に、操ることに集中させるタイプで、中高速コーナーでのスタビリティから低速コーナーでの素直なターンインまで、一貫性あるフィールに仕上がっている。
加えて、A290 GTSの走りがフィールグッドなものに仕上がっているのは、聴覚面でのデバイスが大きい。それが「アルピーヌ・ドライブ・サウンド」と呼ばれるドゥヴィアレのオーディオシステムに組み込まれた機能だ。インフォテイメント内の設定画面で、「アルピーヌ」か「オルタナティブ」という、2種類の音色・トーンを選ぶ限り、使い勝手はサウンドジェネレーターの一種だ。
ところがBEVでよくあるV8やらV10やら疑似音のエキゾーストノートをかぶせたシステムとは、本質的に異なる。わざわざ電気モーターの駆動音をサンプリングして信号に変換し、アンプで加減速に応じて増幅しては車内のスピーカーで再生する、というのが、その中身であり仕組みだ。
コーチング機能やチャレンジ機能も備わる
なぜこんな凝ったことをするかといえば、単にドライビングにはエンジン音に似た音がすればいいのではなく、電気モーター・パワートレインの反応/リアクティビティを、純粋にドライビングの一部としてドライバーの聴覚に届けるため。要はオーディオを介して変換しているとはいえウソのない音を、タービン音のようで耳障りな高周波ではないギュイーンとかヴォーンといった音を、適度なボリューム感で車内に響かせられるのだ。無味無音の無機質な環境ではドライビング操作に没頭するのは難しく、耳から入る情報がリズムやビート感となって作用するのは言うまでもない。
実際、ステアリングスポークの左右に据えられたドライブモードやRCH(リチャージ)ダイヤルを回して、加速時の負荷や制動時の回生減速の強さを変えると、それらが音色の変化となって表れてくる。しかもA290にはビデオゲーム感覚でトライできるコーチング機能やチャレンジ機能といった、中にはクローズドコースで実行すべきドライビングレッスン的なプログラムもインフォテイメントに含まれている。
BEVでもかくして繊細なドライビングを楽しめることに、見方や感覚が変わるというか、新しい体験の糸口が開かれるのだ。それは食わず嫌いだった食材に、想像していなかった味を発見して、クセになることに少し似ている。ホットハッチとBEV化というただ付け合わせるだけでは相容れないテーマを、アルピーヌA290はエクスペリエンスを軸に繋ぐことで、見事に近未来のホットハッチを現出せしめた。