マツダ CX-80のシフトゲートのデザインが凝っていた
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「シフトノブ問題」。最近の新型車ではシフトレバーが見当たらないことが少なくありません……。
颯爽と出発したいけれど……
仕事の関係で、いろいろな新車をドライブする機会に恵まれています。自動車メーカーの広報部に車両の貸し出しを申請し、担当者の立ち会いのもとで試乗を始めるのがいつもの流れです。
「お気をつけてくださいね」
「それではお借りします」
というやりとりを経て、試乗がスタートするのですが、スムーズに進まないことが時々あります。自動車の運転を生業にしていて多くのモデルに触れる機会があるため、運転がぎこちないと信頼を得ることができません。颯爽と発進したいところですが、シフトレバーが見当たらないことが少なくないのです。
マニュアルミッションの場合、左手が自然に届くあたりにシフトレバーがあります。左ハンドルのクルマなら右手のエリアにあるでしょう。しかし、最近のオートマチック車では、そこにシフトレバーがあるとは限りません。メルセデス・ベンツでは、ステアリングコラムの位置にシフトレバーがあったりします。レバーならまだしも、ボタン方式のものも多く、探すのが難しい場合もあります。
古くからオートマチックのシフトは、「P・R・N・D」が前方に並んでいるのが一般的です。「D」の前にエンジンブレーキ力を高める「B」や「L」が配置されることもありますが、レバーの縦配置に慣れた身としては、違和感を覚えます。そもそもボタンが見当たらず、担当者の前で恥をかくことになります。
各メーカーはシフト操作に知恵を絞っている
直接的なリンクが結ばれておらず、電気的配線のみでつながるバイワイヤー方式が浸透してきたため、各メーカーはシフト操作に知恵を絞っています。
「どれが安全なのか」
「操作しやすいのはどれか」
試行錯誤が繰り返されています。
最近の変わり種は、マツダ「CX-80」です。先進的なバイワイヤー方式ながら、シフトゲート自体はこれまで慣れ親しんだ左手の届く自然な位置にありますが、ゲートのデザインが凝っています。
従来のように「P・R・N・D」が一直線に並んでいるのではなく、「R・N・D」の3ポジションになっています。パーキングの「P」は、列から外れ、「R」の右に移動しているのです。
つまり、「P」から「D」まで一直線に手前に引くのではなく、一旦手首を左にひねった後に引く必要があります。このように、2アクションになったのです。
その理由は安全性にあります。停車するための「P」と、ドライブするための「R・N・D」を手先の感覚から区別するためだそうです。そのために2アクションも厭わないとのこと。安全性を高めるための措置です。
とはいえ、「P・R・N・D」に長く慣れた腕は、クルマを停止させる際に無意識に手前に引いてしまいます。それで安心してしまうと、まだギアが「R」に入っているので、慌ててしまいます。マツダ社内でも侃々諤諤(かんかんがくがく)の議論が重ねられた結果のようですが、慣れるまでには不安があります。
マツダは古くから操作系に対して強いこだわりを持っており、世間的にポピュラーな操作系を良しとせず、新たな常識に挑戦するのが社風です。このシステムが果たして最良なのか、今後の普及が決めてくれるのではないかと思います。