ホットハッチの開祖、ゴルフGTIの最新世代をテストドライブ
2024年に世界初公開されたのち、2025年1月から日本国内でもデリバリーが開始されたフォルクスワーゲン新型「ゴルフ」。通称「ゴルフ8.5」では、いみじくも今年50周年を迎える伝統のスポーツグレード「GTI」も同時上陸しました。ほかのゴルフ8.5たちとともに、東京都内でテストドライブの機会が設けられたのでその進化ぶりをレポートします。
ゴルフ8.5 GTIは20psのパワーアップ! インフォテイメント系も充実
さかのぼることちょうど半世紀、1975年にデビューしたフォルクスワーゲンの元祖「ゴルフGTI」は、かつては「ボーイズレーサー」とも呼ばれた「ホットハッチ」カテゴリーの先駆者である。
当時最大でも1.5L・75psだった初代「ゴルフ」に、ボッシュKジェトロニック機械式燃焼噴射を組み合わせて110psを発生する、1.6Lの直列4気筒SOHCエンジンを搭載。ポルシェやメルセデス・ベンツ「Sクラス」に混ざって、アウトバーンの追い越し車線を颯爽と走ることのできる、50年前の常識においては規格外のモデルだった。
その後のゴルフ2以降でも、GTIは今世紀初頭までゴルフの最上級グレードとして設定されてきた。2003年により高出力のエンジンと4輪駆動システムを与えられた「ゴルフR」が登場したのちも、GTIは前輪駆動のまま変わることなく、常にホットハッチ車の世界的ベンチマークとして君臨してきたのだ。
そして第8世代のゴルフGTIは、標準型ゴルフ8より少し遅れた2021年末に日本上陸となっていたが、今回のゴルフ8.5世代では、ほかのハッチバック/ヴァリアント各グレードと同時に国内デビューを果たすことになった。
全長4295mm×全幅1790mm×全高1465mmというスリーサイズ、あるいは1430kg(電動スライディングルーフ仕様は+20kg)のウェイトは従来型から不変であるいっぽう、エクステリアではバンパースポイラーのスタイリングが刷新されているほか、ハイビーム照射距離を500mに拡大させた「IQ.LIGHT」を採用する、新デザインのLEDマトリックスヘッドライトなども採用されている。
インテリアでは「ChatGPT」を採用し、インフォテイメントやエアコンなど多くの機能を音声でコントロールできるボイスアシスタント「IDA(アイダ)」を内包した新世代のインフォテインメントシステム「MIB4」を、新型「ティグアン」や新型「パサート」と共有。そのかたわら、ステアリングのスポーク上に設けられたグロスブラックのタッチ式スイッチが、コンベンショナルに指先で押す物理スイッチに戻された。
いっぽう「GTI」の要である2.0L直列4気筒直噴DOHC 16バルブ+ターボのガソリンエンジンは、最高出力で従来型から20psアップとなる265psをマーク。ただ、最大トルクは不変の370Nmで、これも従来型と同じく7速湿式のDSGと組み合わせる。
シャシーまわりでは、従来型からディファレンシャルの統合制御を可能とする「ビークルダイナミクスマネージャー」を継承するほか、サスペンションを電子制御し、4つの走行モードで使い分けるアダプティブシャシーコントロール「DCCパッケージ」がオプションとして選択可能。またDCCパッケージには、標準の18インチホイール/タイヤに代えて「ゴルフ5」時代のGTI用アロイホイールのデザインを反映した「Queenstown」スタイルの19インチホイール/タイヤが標準指定されることになっている。
2リッター直噴ターボエンジンは変わらぬ活発さ
一昨年の2023年、ゴルフ8時代にも同じく暗い赤色(キングスレッドME)のGTIを試乗し、そのドライビングプレジャーにすっかり感服させられてしまった筆者だが、再びチェック地のテキスタイルを用いたバケットシートに腰を降ろすと、あの時のエキサイトした気持ちが蘇ってくる。
はやる気持ちを抑えつつ、センターコンソール前方に置かれた「START」ボタンを押すと、「ヴォンッ!」という軽い咆哮とともに始動。東京・臨海地区の一般道に向けて走り出す。
まずはデフォルトである「COMFORT」モードで市街地を流すようなペースで走ると、相変わらずの活発さ。従来型GTIの245psから265psとなったという2.0L直噴ターボエンジンながら、その違いを公道で体感できる機会は少ないだろう。
それでも、もとより当代最新の2Lクラスとしてはまだ伸びしろのあるパワー設定だったせいか、あるいは高出力と環境性能を両立させるため、通常の燃料直接噴射にくわえてマルチポイント噴射を備える「デュアルインジェクションシステム」を従来型と同じく採用しているせいか、パワーが増えてもターボラグが大きくなるなどの弊害は皆無。スロットルを踏み込めば、まるで自然吸気の大排気量エンジンのようにトルクの塊がグイグイと車体を押し進め、市街地の流れをリードできるのはもちろん、高速道路でもあっという間に法定速度に達してしまう。
今度という今度こそ、最後の純ICE搭載GTIかも?
さらに、タッチスイッチで「SPORTS」モードに変えると、レスポンスもトルク感もアップ。低回転からスロットルを踏み込んだ時には「バルルルッ!」そして高回転域では「コーンッ!」ととどろく硬質なエキゾーストサウンドには、スピーカーからの補助音によるサウンドエフェクトが加味されているのかもしれないが、今となっては内燃機関の喜びをこれほど味あわせてくれる4気筒エンジンも少なくなっていることを実感させられる。
さらには可変ステアリングラックを採用し、ロックtoロックでわずか2.1回転とされた「プログレッシブステアリング」がもたらす、ホットハッチというよりはスポーツカーを思わせるハンドリングも健在である。
4モーションAWDシステムを持つ現行ゴルフRが重厚なドライブフィールを身上とするのに対して、こちらのGTIは明らかに軽快。この軽快さと安定感の「妙なる調和」こそ、初代以来継承されてきたゴルフGTIの真骨頂……、というのは前回のゴルフ8 GTIの試乗レポートでも記したとおりである。
しかし、今回の試乗車に装備されていたDCCパッケージ仕様車については、19インチのタイヤに若干の過剰感を覚えてしまったのも、また正直な感想。アダプティブシャシーコントロールで4モードを使い分けられるのはたしかに楽しく、実利もあるとは思いつつも、そのかたわらでタイヤは軽快なハンドリングが強調される18インチのほうが好適にも感じられ、じつに悩ましいところなのだ。
それでも、次期ゴルフ9のGTIがEV化される……? そもそも次期ゴルフは、依然としてEV専用車として開発が進められている……? などという憶測がある今、たとえマイナーチェンジ版とはいえ今度こそ最後になるかもしれない純ガソリン車のゴルフGTIを慈しむごとく味わっておくべきという気持ちは、間違いなく強くなったのである。
Specifications
■VOLKSWAGEN GOLF GTI
フォルクスワーゲン ゴルフGTI
・車両価格(消費税込):549万8000円
・全長:4295mm
・全幅:1790mm
・全高:1465mm
・ホイールベース:2620mm
・車両重量:1430kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
・排気量:1984cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FF
・変速機:7速DSG
・最高出力:195kW(265ps)/5250-6500rpm
・最大トルク:370Nm/1600-4500rpm
・燃料タンク容量:51L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)4リンク
・ブレーキ:(前&後)ベンチレーテッドディスク
・タイヤ:(前&後)225/40R18