ファントムVIの秘蔵エピソードを紹介
1968年〜1991年にかけて374台生産され、女王エリザベス2世も2台所有していたロールス・ロイス「ファントムVI」は、グッドウッド時代前における最後のコーチビルドモデルです。ファントムが誕生してから100周年を記念して、ブランドの歴史に輝くファントムVIを紹介します。
ロールス・ロイスの伝統を繋ぐ最後のモノコック構造モデル
1904年の創業以来、ロールス・ロイスはシャシーのみを生産し、顧客は独立したコーチビルダーにボディの生産を依頼していた。同社は1960年代に初のモノコック構造の完成車を生産したが、シャシーのみの生産も1980年代まで続けていた。
ロールス・ロイス「ファントムVI」は、この形式で生産された最後のロールス・ロイスとなった。ヘンリー・ロイス自身が確立したロールス・ロイスの作法に従い、ファントムVのアップグレードと改良から生まれたモデルである。積み重ねられた改善により、同社のエンジニアは、新しい名称に値するほど十分に進化していると判断するようになった。
それでも、ファントムVIはすでに時代錯誤のように感じられた。当時、ファントムVの顧客はボディを4つの名門コーチビルダーのHJマリナー、パークウォード、フーパー、そしてジェームズ・ヤングから選ぶことができた。1961年までに後者の2社は閉鎖し、ロールス・ロイスは残りの2社を買収して自社のコーチビルダーとして統合し、HJマリナー・パークウォードとして知られるようになった。この会社は、事実上、ファントムVIのほぼすべてのボディを提供することとなる。
女王エリザベス2世が2台所有し、現在でも使用されている
コーチビルドは、ロールス・ロイスにとってもニッチな事業となっていたが、ファントムVIは、この長年の伝統技術にふさわしい名車が製作された。たとえば、コードネーム「アルファ」と呼ばれる7台のリムジンは、外見上はほかのファントムVIと類似しているが、よく見ると幅広のクロームメッキの窓枠や、16インチホイールが装着されていた。これらの変更は、厚さ5mmのガラスと7mmの装甲板を収めるために必要とされたもので、これにより後部座席は銃弾や爆弾にも耐えることができた。
ファントムVIは、セダンカ・ド・ヴィルとランドレットのコーチワークを提供した、最後の真のコーチビルドでもあった。ランドレットはBピラーまで、またはリアシートの上まで開くようになっており、エリザベス王太后は後者のタイプを選んだ。
王太后の娘である女王エリザベス2世は、ファントムVIを2台所有していた。1台目は「オイルバレル」というコードネームが付けられ、屋根の高さを13cm(5インチ)高くし、乗員がプライバシーを必要とする場合には、2つのパーツからなる黒く塗装されたアルミニウム製のドームで素早く覆うことができる透明なリアキューポラが装備されていた。
2台目は1987年7月に王室専用車輌として納入され、「レディ・ノーフォーク」というコードネームが付けられ、標準的な車高であった。現在でも2台ともロイヤルファミリーで使用されている。