最後のモデルの特注仕様とは
シルバークラウド時代に生産されたシャシーやボディの部品の入手が困難になったことで、ついにファントムVIの生産は終了した。顧客が注文した最後のモデルは1991年5月に納車され、117の特注機能のなかには、仕切りの後ろのキャビネットの上に置かれ、隠れた磁石で固定された純銀製のフルーツボウルなどもあった。
ファントムVIは、23年間でわずか374台しか生産されなかった。最後に完成したクルマは、赤を基調に黒で仕上げられたランドレットで、前部座席には赤いレザー、後部座席には赤いビロードが使用されていた。ロールス・ロイスは当初、このクルマを保有するつもりであったが、不況のあおりを受けて、1993年に手放すこととなった。
伝統的なコーチビルドのボディワークを備えた最後のモデルとなったファントムVIは、伝統的なコーチビルダーの芸術の頂点であり、終焉を意味する。20年以上後にロールス・ロイスがグッドウッドで「スウェプテイル」で現代的なコーチビルディングのルネッサンスに乗り出すまで、比類のないラインの純粋さとディテールの精巧さを備えていた。
AMWノミカタ
コーチビルダーがボディを製作する世界はモノコックボディの生産とともに1960年代に消えて無くなっていたかと思っていたが、1990年代まで昔ながらの製法でクルマが作られ続けていたとは知らなかった。マリナーは1600年代に創業した馬車の生産を手掛けたコーチビルダーで、時代の流れとともに自動車のボディ生産に移行し、現在ではベントレーのビスポーク生産部門として特注車両の製作を行っている。
パークウォードは自動車専用のコーチビルダーとして1919年に誕生し、1950年代〜1960年代にはアルビスのボディの生産なども行っていたことで知られている。後に1990年代にロールス・ロイスは「パークウォード」というモデルを販売するが、実際のボディワークをパークウォードが手がけたわけではない。
ファントムVIはそれらのコーチビルダーの手がけた最後のモデルとなるが、23年間で374台しか生産されなかった。販売的には時代の流れに合わず成功とは言えないのかもしれないが、逆に374名の最も伝統的なロールス・ロイスを愛する顧客の手に渡ったともいえるのではないだろうか。