ほぼハンドメイドによって造形
パッと見は「T型フォード!?」と思わせてくれたのは、兵庫県姫路市に本拠地を置く日本工科大学校の生徒たちが製作したスズキ「ジムニー」(JB23)がベースのレトロカー「クラシック・デリバリー・タイプA」でした。大規模リメイクされた同車の詳細をお伝えします。
ベースがジムニーとは思えない作り込み
このクルマは日本工科大学校に通う4年生と3年生の一部が加わり卒業課題として製作した渾身の1台である。ベースは先代モデルのスズキ「ジムニー」(JB23)で、コンセプトは1920年代にアメリカで誕生した名車「T型フォード」のマイナーチェンジ版「モデルA」に似せるべくリメイク作業を進めた。
自動車大国であったアメリカが生んだモデルAは、その信頼性と優れた性能の高さからデリバリーバンとしても活躍。働き者のクルマとして全米で大ヒットを記録した。そんな名車をジムニーで再現するためには、まさに大規模なリメイクが必要になるのは容易に想像がつく。
ヴィンテージカーの象徴である長いボンネットやグリル、そしてサイクルフェンダーなど特徴的なパーツをジムニーにセットするために、造形の前に生徒たちは、ジムニーの外装をバラバラに解体し、取り付け位置等を確認するところから作業を進めた。
そこから、実際にイメージ通りのスタイルを作り出せるかを模索。当然だが、フロントの形状は大きく違うため、ジムニー搭載のエンジンはそのままに、バッテリーや各補器類のレイアウトを変更。ラジエターも純正のままでは大きすぎて収まらないため、苦肉の策として、斜めに寝かせることで、フォード タイプAの細長いボンネットとグリル形状を作り出せるように工夫した。
各外板パーツについては、ジムニーの寸法に合わせて生徒たちがアルミの平板から作り出したものだった。フェンダーや、グリル、ボンネット、サイクルフェンダー、リアパネル等、すべて機械加工ではなく、ほぼハンドメイドによって造形を行ったというから凄い。生徒のひとりにとくに難しかった点を聞くと次のように答えてくれた。
「何よりもすべてが一点物のパーツなので、それぞれ同じように左右対称にふたつ作ることがとくに大変で、何度も修正しやり直すこともありました。少しのズレもないように気を使いながらのシビアな鈑金作業を行ったことで、自分たちにとって良い勉強になり、また同時にこういう物を作り出せるという自信にもなりました」
魅せるだけのショーカーではない作り込み
ボディについては、デリバリーバンぽいリメイクとして昔の横浜ゴムの看板で見かけたスマイレージをレトロなカラーリングの中にアレンジ。よく見ればルーフも若干持ち上がっており、これはタイプAらしいフォルムの追求とともに幌をイメージして製作。艶消しブラックにしているのも幌車であることを伝えるためということであった。
また、灯火類については、車検を取得することを前提に現在の法規に合わせた物を選択して装着する。取り付け位置等も車検に通る高さ、位置等を事前に調べてヘッドライト、ウインカー、サイドマーカー等をセットしている。独特の形状がユニークな灯火類だが、これだけは作れないので海外の既製品を購入しセットしているとのことであった。
今回のボディモディファイについては、愛知県名古屋市にファクトリーを構えるコンプリートカー・ビルダー「アートレーシング」の村手智一氏の指導のもとで生徒たちが熱意をもって真剣に取り組んだ。その仕上がりは見てのとおり、カスタムレベルとしてとても高く、公道を走れるように工夫して作るなど、魅せるだけのショーカーではない作り込みも立派。こんなジムニーが実際にあったら欲しくなる。そんな1台として会場での注目度も抜群だった。