LBXが切り拓いた新たなデザインの道
レクサスの象徴ともいえる「スピンドルグリル」が、「LBX」で大胆に進化しました。その背景には、開発チームの葛藤や挑戦があったといいます。本記事では、LBXのデザインを手がけたレクサス・インターナショナル プロジェクトチーフデザイナーの袴田浩昭さんに、開発の経緯やこだわりについてお話を伺いました。小さなボディに込められた新たなデザイン哲学とは?
スピンドルグリルの変化がもたらす新たなレクサス像
島崎七生人:なんといっても「スピンドルグリルをぶっ壊す」のキャッチには驚きました。大変だったでしょうね?
袴田浩昭さん(以下、敬称略):すっごく難しかったです。スピンドルグリルはレクサスの顔になっていた部分で、それを変えるということは「レクサスじゃなくなっちゃうんじゃないか」という不安はわれわれにもありました。
島崎:ここ最近のモデルで「RX」とかBEVの「RZ」などは、フレームレスにしたりボディ色にしたりと、かなり変化させていたというか「崩し」に入ったなとは思っていましたが……。
袴田:そうですね。RXからはじまった「スピンドルボディ」は、外板色になり、シームレスでグラデーションのかかったようなグリルの表現がありました。そこからさらにスピンドルの形そのものも変えていこうと。その取り組みのひとつが「LBX」でした。
島崎:生まれも育ちもまったく庶民の僕には、ハイソサエティな今までのスピンドルグリルのあしらいには、ずーっと距離を感じていました。ですがLBXについては近くなったというか、馴染みやすくなった気がします。
袴田:もともと「壊す」からはじめましたが、とくにLBXのようなBセグメントの小さいクルマだと、ラジエター自体が結構下にいるんです。そういうパッケージだったこともあって、今までのガーッと大きいグリル形状が必要なくなった。ということで目の上のレゾリュートルック(毅然とした表情)という……。
島崎:キリッとシャープな表情に見せる表現方法ですね。
袴田:はい。レゾリュートルックそのものはじつは以前からやっていましたが、LBXではよりわかりやすい表現にして、その下にレゾリュートルックを下支えするようにグリルを配置して、今までのスピンドルグリルとはちょっと違う見せ方にしました。でも今までのレクサスらしさはちゃんと残してあるということです。
LBXがもたらした新たな美学
島崎:ちょうど2024年も新型「プリウス」を過去最高のデザインですね、とお話していたのですが、このLBXもなかなか……。
袴田:甲乙つけがたいですか(笑)。
島崎:大きな声で言っていいのかわかりませんが、僕にとって今までのすべてのレクサス車のデザインでトップ3に入ります。
袴田:ありがとうございます。
島崎:スピンドルグリルが変わったこともそうですし、今までのレクサス車はたいがいボディ側面で跳ね上がったり盛り上がったりするラインやプレスがありましたが、それらがほぼない。ああスッキリしたぁ、とてもいいことだぁ、と僕は思うのですが、そのあたりはどういうお考えですか?
袴田:キャラクターラインというのは、デザインする上で必要最小限にしたいというのは僕はありました。キックしたり線がいっぱい入ってっていうのは見応えには繋がりますが、とくにLBXはパッケージもよかったので、塊で見せたいという思いが凄く強くありました。その意味で塊を強く見せるにはキャラクターラインをなるべく排除して、小さいけれど存在感があることを見せるためには、面を小さくまとめるのではなく小さいからこそ大きな面で捉えて造形する……というのをLBXでは心がけました。