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世界にたった1台…でも470万円のフィアット「127 ディンギー」だったら手が届く!? 70年代的カルトカーなら珍車コンクールでも目立つこと間違いなし!

3万1360ドル(邦貨換算約470万円)で落札されたフィアット「127 ディンギー」(C)Bonhams

イタリア式ビーチカー、スピアッジャの70年代式進化形

クラシックカーのオークション業界では名門として知られる英国ボナムズ社は、2025年1月30日にスコッツデール市内のリゾートホテル「The Westin Kierland Resort & Spa」を会場に、大規模なオークションを開催。今回はその出品車両の中から、1970年代に世界で1台のみワンオフ生産された、ビーチカーを紹介します。

往年の名デザイナー、ピエトロ・フルアの創りあげたビーチカーとは……?

1950年代~1960年代のイタリアでは「スピアッジャ」(Spiaggia:デッキチェア)というジャンルで呼ばれるクルマたちが、彼の地で「ヴァカンツァ(バカンス)」を過ごすセレブリティのため、有力カロッツェリアの手で少数生産されていた。

イタリア語のジャンル名が示すとおり、濡れた水着のままでも乗車できるようにラタン(籐)で編まれたデッキチェア状のシートを前後に配し、ルーフはいさぎよくカットオフ。ドアも取り去られる代わりに、まるでレストランやカフェのようなタッセル(飾り房)つきの布製日サンシェードを掛ける。つまりは海辺やリゾートでのみ使用する、「ドルチェ・ヴィータ」的オシャレに全振りしたようなビーチカーである。

その代表格だったのが、フィアット「600」や「ヌォーヴァ500」などをベースに、イタリア・トリノのカロッツェリア「ギア」社が少量製作したビーチカー「ギア・ジョリー(Ghia Jolly)」。有名なディンギーヨットと同じ名を持つ、このスピアッジャの影響力は絶大だったようで、当時のイタリアのカロッツェリアたちはこぞって、この種のビーチカー製作にチャレンジすることになった。

金属製のハードトップが取り付けられている

このほどボナムズ「Scottsdale 2025」オークションに出品された、このフィアット「ディンギー」も、そんなスピアッジャの1台。伝説的なイタリアのコーチビルダー「カロッツェリア・フルア」に依頼され、1972年型フィアット「127」をベースに、1977年頃に完成したとのこと。そして、この1台のみワンオフ製作されたモデルと考えられている。コンセプトは明らかにギア・ジョリーから引用されたもので、「ディンギー」という名前もジョリーの起源を想起させる。

1950年代~1960年代に一大勢力を築き上げた巨匠、ピエトロ・フルアのデザインはユニークで、彫刻的な形状ながら頑丈そうなピラーを介して、金属製のハードトップが取り付けられている。開祖ギア・ジョリーのごとくソフトトップとしなかったのは、この時代にはすでにオープンカーの行く末に暗雲が立ち込めていたからとも推測されよう。

デビューの場となった1977年のジュネーヴ・ショーにて、ほかのフルア作品とともにこのクルマが展示されている写真を見ると、素晴らしいホワイトのペイントに木製のアクセント、ホワイトのホイール、そしていかにも1970年代風のインテリアが施されたことが示されている。

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フィアットなのに高価……? ワンオフ製作車にしてはリーズナブル……?

世界で1台だけ作られたこのフィアット・フルア 127 ディンギーは、今回のオークション出品者でもある現オーナーが2022年に入手したもの。

この個体が生涯の大半を過ごしたカリフォルニアで発見した彼は、おそらく3代目のオーナーと推測されている。現オーナーは、1980年代初頭のある時期にイタリアからカリフォルニアに輸送し、以来長らく所有していた先代オーナーから、この127ディンギーを購入したという。

前オーナーのもと、南カリフォルニアの乾燥した気候の中で日々を過ごし、1970年代のフィアットによく見られるような小さな腐食が所々に見られるが、ありがたいことに乾燥したカリフォルニアの気候のおかげで腐食は最小限に抑えられ、激しいものでも広範囲に及ぶものでもなかったようだ。

この127ディンギーは、フルレストアを施せばジュネーヴ・ショー当時の仕様に戻すことができるポテンシャルを有しており、もしそれがかなえばフルアのワンオフ作品として自慢の1台となることだろう。現時点での走行距離は1万7700km強とのことながら、距離の伸びないジャンルのクルマゆえに、これは実メーター数値とみて間違いあるまい。

現在の「Totally Rad」マルチカラー塗装は、おそらく1980年代のものと思われる。再塗装されたとはいえ、シートやペイント、ハースト社製のクイックシフターが交換されている以外は、ほぼオリジナルと思われる。出品者の弁によると、このクルマは現時点でも走行可能な状態で、地元のカーショーにも定期的に参加しているとのこと。現在の付属品としては、現オーナーが入手した時から添付されていた予備のホイールセット、予備のフィアット 127 ステアリングホイールなどさまざまなパーツが含まれる。

現状でも軽度のレストアが施された、この爽快な127 ディンギーは、ヨットハーバーやビーチ、ヴィラ(別荘)で使用するユニークでスタイリッシュなシャトルカーとして、あるいはコンクール・デレガンスにも出品できる1台として、素晴らしいポテンシャルを秘めている。

エスティメートを上回る金額で落札

ボナムズ社の公式オークションカタログでは、

「ワンオフのイタリア製コーチビルドのショーカー、とくに伝説的なピエトロ・フルアが手がけた車両を手に入れる機会は、じつに稀。しかも、アルファやマセラティ、フェラーリのワンオフカーに比べれば、ほんのわずかなコストで手に入る」

と、いささか自虐的にもとれるPRフレーズを添えつつ、1万ドル~2万ドル(邦貨換算約156万円〜約312万円)という、あまり自信を感じられないエスティメート(推定落札価格)を設定。その上で「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格は設定しなかった。

この「リザーヴなし」という出品スタイルは金額の多寡を問わず確実に落札できることから、とくに人気モデルではオークション会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むことも期待できる。ただしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても落札されてしまうという、危険な落とし穴も表裏一体として待ち受けている。

そして迎えた競売では、エスティメート上限の約1.6倍にも相当する3万1360ドル。すなわち、現在のレートで日本円に換算すれば約470万円という、出品者サイドの期待をさらに上回る価格で落札されるに至った。

それでも、たとえばカルフォルニア州モントレー半島一円で毎年8月に開催されている「モントレー・カーウィーク」だけにターゲットを絞っても、イタリア車の集いである「コンコルソ・イタリアーナ」と、珍車によるコンクール「コンクール・ド・レモン」の双方で大人気を得られるポテンシャルのあるクルマと思えば、この高めのハンマープライスさえもリーズナブルに見えてくるかもしれない……? と思うのは、きっと筆者の邪推であろう。

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