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たった17台しか製造されなかったポルシェ「924カレラGTR」の奇跡の個体…三和自動車が保有していた新車同然の個体でも、911でないと人気はない!?

45万ドル~55万ドル(邦貨換算約6700万円〜約8200万円)で現在も発売中のポルシェ「924カレラ GTR」(C)Bonhams

幻のレーシングポルシェ、924カレラGTRがオークションに降臨

ポルシェの純スポーツモデルがクラシックカー/ヤングタイマー市場にて高価格で取り引きされるのは、昨今では誰もが知る事実です。さらに日本のファンの間では「役モノ」と呼ばれるハードコア系の限定モデルはさらに高騰していますが、そのさらに上を行くのが「レン・シュポルト」などと呼ばれる純粋なレーシングモデルたち。ボナムズ社が2025年1月25日に北米アリゾナ州で開催した「Scottsdale 2025」オークションでは、そんなレーシングモデルのひとつである「924カレラGTR」が出品。なみいる水冷トランスアクスル・ポルシェの中でも特別な1台の降臨に、世界中のポルシェ愛好家が色めき立つことになりました。

水冷だって本物のポルシェ! を証明するために創られたレン・シュポルトとは?

1970年代後半、ポルシェは「911」に代わる新型車、水冷「924ターボ」をベースとする本格的なレーシングウェポンの開発に着手し、ル・マン24時間レースへの挑戦を目指した。ポルシェの取締役たちは、同社モータースポーツ部門のボスであるノルベルト・シンガー博士に、フロントエンジンで水冷、アウディ由来のエンジンを搭載した「924」が「本物のポルシェ」であることをポルシェの顧客や懐疑的な人々に示すよう命じた。

1980年のル・マン24時間耐久レースで、ポルシェは当時新設された「GTP」カテゴリーに3台の924プロトタイプをエントリーさせた。3台のワークスカーのうち2台にはいくつかのトラブルが発生。後退を余儀なくされたものの、ユルゲン・バルト/マンフレッド・シュルティ組の「924 GTP」は総合6位、GTPクラス3位でフィニッシュした。

このレーシングプログラムの成果として、3種類の924カスタマーバージョンが誕生する。ロードゴーイング仕様の「924カレラGT」、軽量化され集中力を高めたホモロゲーションスペシャルの「カレラGTS」(軽量ロールケージのクラブスポーツ・モデルを含む)、そして本格的なカスタマー・レーシングマシンである「カレラGTR」である。

3つめのGTRは、ワークスGTPプログラムの直系。ほぼ共通のモデルであり、世界中のプライベーターのためにヴァイザッハのレース部門で17台が生産された。

車両重量は1トン切りのわずか920kg

924カレラGTRは一体型アルミ製ロールケージ、大幅にワイド化された軽量ボディワーク、375psを発生するドライサンプ式エンジンなど、必要不可欠なものだけを残してすべてそぎ落とした。また、チタン製スプリングを備えたフルアジャスタブル式サスペンション、「917」譲りのディスクブレーキ、「935」と共通のBBS製センターロック3ピースホイール、100%ロッキング・ディファレンシャルも装備されていた。そして、車両重量わずか920kgのフェザー級924カレラGTRは、レーストリムで最高時速180マイル(約290km/h)を記録した。

真のモータースポーツツールとして、ほとんどのGTRがサーキットで活躍し、少なくとも9台がル・マンに参戦したほか、北米で熱戦が繰り広げられた「IMSA GTO」カテゴリーでは、ポルシェのレジェンドであるブルモス、クレーメル、アル・ホルバートなどのプライベーターが、このマシンでエントリーしたとされている。

ただし、17台のうち少なくとも1台ないしは2台がサーキット走行による荒廃を免れ、究極のコレクター向けトランスアクスル・ポルシェとして、イベントなどに姿を現すこともあったとのことである。

長らく日本にいた、レース歴のない奇跡の1台とは?

このほどボナムズ「Scottsdale 2025」オークションに出品された、この注目すべき924カレラGTR、シャシーナンバー「72010」は、日本に新車として販売されたわずか2台のカスタマー向けGTRのうちの1台と考えられている。

当時のポルシェ日本総代理店である「三和自動車」(のちのMIZWA)は、この生粋のレーシングマシンを約2年間にわたって社内で保有し、そののち日本のビジネスマンに売却したとのこと。そして実質的な初代オーナーである購入者は、長らく自身のガレージで大切に保管するとともに、年に一度はポルシェのスペシャリストに運ばれて年次点検を受け、エンジンやトランスミッションなど機関部のフルードを循環させるために、ごく短距離を走らせていたといわれている。

また、鈴鹿サーキットおよび富士スピードウェイにて数回は走行したとの記録も残っているそうだが、公式レースで走ったという記録は残っていない。2016年にイギリスに渡り、販売された時の走行距離は、わずか109kmに過ぎなかったとのことである。

わずか17台しか製造されていない

公式オークションカタログによると、

「この特別な924カレラGTRは、一度もレースで走らせたことがないため、非常にオリジナルなコンディションを保っている。わずか17台しか製造されなかった924カレラGTRのうちの1台であり、レースにも出場していない唯一の1台」

と記されているのだが、じつは日本に来たもう1台、白い924カレラGTRも公式レース歴がないと判明していることから、少なくともこのカタログの記述には事実誤認があるということになる。

ちなみにもう1台の白い個体は、2022年にパシフィコ横浜で開催された旧車トレードショー「ノスタルジック2デイズ」に展示。長きにわたって姿を見せていなかったそのGTRが、同イベントのスターとして脚光を浴びたことをご記憶のかたもいらっしゃることだろう。

したがって、今回の赤いオークション出品車は唯一のレース歴のない個体ではないとはいえ、その偉大さは間違いないもの。同じカタログに記された、

「究極のトランスアクスル・ポルシェ、シュトゥットガルトのモータースポーツの歴史における重要なマイルストーン」

という記述には、誤りも誇張もないと思われる。

かくしてボナムズ社は、この超レア度とヒストリーを考慮して45万ドル~55万ドル(邦貨換算約6700万円〜約8200万円)という、「レン・シュポルト」なポルシェとしては順当ともいえそうなエスティメート(推定落札価格)を設定する。

ところが当日の競売ではリザーヴ(最低落札価格)まで至らなかったようで、残念ながら流札。現在でも当初のエスティメートのまま、継続販売となっているようだ。

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