ボルボの雪上試乗イベント「EX30 Winter Drive」参加レポート
2023年6月にワールドプレミアを果たし、翌年早々には日本にも正規導入が始まった「EX30」。ボルボ史上もっとも小さなSUV、そしてもっとも小さなBEV(バッテリーEV)として、すでになかなかの人気を博しているモデルです。導入から約1年を経た2025年2月、という雪上試乗イベントに参加。試乗コースとなったのは、新潟県と長野県をまたぐ地域の一般道と高速道路。冬の豪雪に見舞われ、どこへ行っても壮観な雪景色でした。
ボルボ最小のバッテリーEV、EX30ってどんなクルマ?
自宅から徒歩圏にボルボのショールームがあるせいかもしれないが、このところ筆者の住む地域でも「EX30」のスタイリッシュな姿を見る機会が、急速に多くなっている気がする。
コンパクトSUVのカテゴリーに属するというEX30のボディサイズは、全長4235mm×全幅1835mm×全高1550mm。日本の立体駐車場に収まる全高は、ボルボ・カー・ジャパンが本国に提起した希望が受け容れられた結果ともいわれている。
BEVとしてのパワートレインは、容量51kWhあるいは69kWhのリチウムイオンバッテリーと、1基または2基のモーターを搭載。その組み合わせにより、本国では3つのグレードが設定されるそうだが、現時点における日本市場でラインアップされているのは、69kWhバッテリーを搭載するRWDの「EX30シングルモーター エクステンデッドレンジ」のみとなるという。
このモーターの最高出力は272ps(200kW)で、最大トルクは343Nm。車両重量は1790kgという、ボディサイズのわりにはなかなかのヘビー級ながら、シングルモーター仕様でも0-100km/h加速5.3秒という、まずまずの高性能を発揮する。バッテリー容量は前述のとおり69kWhで、1回の満充電で走行できる距離は560km(WLTCモード)とのことである。
また、フロントアクスルにもモーターを与えてAWDとした「EX30ツインモーター パフォーマンス」も国内デビューの段階から追加設定が伝えられてはいたものの、現時点では日本での正式リリース時期について公表には至っていないようだ。
北欧の自然をイメージしたナチュラルなコクピット
したがって、現状では1グレード体制で販売されていることになるが、このモデルにおける最大のトピックは、北欧の自然をイメージしたという2種類のトリムが設定されたインテリアにある。
いずれも、シート素材やダッシュを上下に分かつパーティクルパネルには再生可能な素材やリサイクル素材を使用し、北欧の自然をイメージしたテーマに合わせてカラーコーディネート。
さわやかな夏の日をイメージし、ピクセル3Dニットのシート生地に、廃棄物となったローラーシャッターなどの破砕物を練り込んだパーティクルパネルを持つ「ブリーズ」。および、夜明けの光に切り取られた朝霧の美しさを表現し、テイラードウール・ブレンドのシート生地に亜麻繊維を織り込んだパーティクルパネルを組み合わせた「ミスト」が設定されるが、この日AMWチームにご用意いただいたEX30は前者、「ブリーズ」仕様であった。
ここで正直にいうと、筆者は30余年の免許歴を有するわりには、本格的な雪道でクルマを走らせた経験はせいぜい数回程度。ましてBEVでの雪道ドライブは、まったくの初チャレンジであった。そしてもうひとつ、今さらながら吐露してしまうと、ハイパワーのBEVとは実はあまり相性が良くない。長年、感覚神経に染みついてきた内燃機関自動車の加速感とはまったく異なる、無音・無振動のまま直線的に猛然と加速する走りに自立神経を逆なでされてしまいそうな感覚があり、なかなか好きになれないのだ。
それゆえ、ことEVについては「そこそこの」パワー・トルクのクルマを好ましいと受けとめがち。でも、雪道というクルマの本質が現れやすいステージで初ドライブすることになったボルボ EX30は、個人的にもとてもナチュラルで気持ちの良いEVと感じられた。
雪上で明らかになったシャシーバランスと素性の良さ
この日がEX30初乗りということで、コクピットドリルを担当してくださるという試乗会スタッフの招きに応じて、まずはシートに腰を降ろして操作系を見渡してみたところ、いわゆる「START」ボタンがどこにもない。聞けば、キーを持って乗り込めば自動でオンとなるとのこと。つまりドアロックとシステムの起動は、スマートキーを持ってクルマに近づけばロック解除となり自動的に起動。離れれば再びロックとなる。
そして、おそろしくシンプルなダッシュパネルの中央に鎮座する、ドライバーディスプレイとセンターディスプレイを12.3インチのタブレットに集約した「コンバインド・センターディスプレイ」の使用法もご教示いただいたのち、一部除雪された駐車場からすでに真っ白な一般道へとゆっくり走り出す。
スロットルを開けばすぐに最大に近いトルクを発生してしまうという電動モーターの特質は、経験不足な雪道でのトラクションに不安を感じていた筆者を大いに縮こませてはいたものの、それでも意を決しておそるおそるスロットルを踏んでみると、後輪をホイールスピンさせることもなく、とてもスムーズで安定感のある加速を見せる。また、回生ブレーキによる1ペダルドライブでほとんどの制動・停車を済ませられることもあって、市街地では積雪をあまり意識することなく走ることができる。
さらに高速道路で本線入りを前に加速する際にも、とてもスムーズで柔らかい加速感。272psというスペックを信じないわけではないのだが、トルクの立ち上がりが直線的ではなく二次曲線的にうまく制御されているせいか、筆者にとっては「ちょうど良いパワー」と感じられるのだ。
価格以上の上質感があふれる、新時代の高級車かも……?
ところで、このようなコースコンディションゆえハンドリングを積極的に試す機会には恵まれなかったものの、平日のスキー場の、誰もいない広大な駐車場を見つけてジムカーナ的な走りにもチャレンジしてみたところでは、スロットルで車体の動きをある程度のレベルまでは保持できるシャシーバランスの良さや、妙なキックバックのない上質なステアリングフィールが確認できた。
いっぽうの乗り心地については、路面の凹凸をコツコツ拾ってしまう傾向もあるものの、これまでに乗ってきた、より大柄なボルボたちを凌ぐようにも思われる剛性感もあって、不快感は皆無である。
また、エンジンの発生する機械音や排気音のないEVではことさら気になってしまうロードノイズについても、車両クラスのわりには低く抑えられていることも相まって、小さいながらも現代の社会的課題と向き合い、それを独自のスタイルとして表現した上質なクルマ。これまでの常識からは逸脱してようとも、新時代の高級車であるとさえ感じられてくる。
もちろん、まったく新しい価値観による独特のインテリアの設えは、乗る者の嗜好によって好みが分かれるのは間違いないだろう。それでも、ここまでサステナブル志向に振り切ってしまうと、本革レザーと天然ウッドパネルに代表される旧来の価値観による旧き良き高級車を愛してやまないはずの筆者にとっても、不思議と悪くないものに感じられたのだ。
ただ、ゆるい坂道とたかをくくって、撮影のために停止するたび再発進に苦労させられてしまった苦い経験からすると、雪上を走る機会の多いユーザーは、やはりツインモーターのAWD版の追加設定を気長に待つほうが得策かもしれない。