ダンロップは「SPORT MAXX」に並々ならぬ想いを込めている
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「ダンロップ SPORT MAXX」。じつは製品名が変わっていたこと、読者の皆さん気がついてました?
製品名から「SP」の文字が消えた……?
ダンロップの最高級ハイパフォーマンスタイヤブランド「SPORT MAXX(スポーツマックス)」シリーズに、新たな「SPORT MAXX LUX」が加わりましたね。SPORT MAXXらしく、確かな操縦性を犠牲にすることなく、それでいて静粛性を高めています。上質な乗り味を求める高級プレミアムモデルに最適なタイヤだと感じました。
すでに市販されている「SPORT MAXX RS」は、その名から想像できるように、高いスポーツ性を重視。「SP SPORT MAXX 060+」は、高速走行時の安定性やウエット性能を強化しています。どれもバランスに優れていますが、詳細に味わってみると、それぞれに個性が感じられます。これらについては、WEB CARTOPで取材しています。ぜひ、インプレッションを通じて体感していただきたいですね。
もっとも、今回の連載コラムで紹介したいのは、「SPORT MAXX LUX」のインプレッションではありません。勘のいい人ならお気づきかもしれませんが、これまで長らくハイパフォーマンスブランドを牽引してきた「SP SPORT MAXX」から、「SP」の文字が消えているのです。
「SP SPORT MAXX 060+」にはまだ「SP」が残っていますが、「SPORT MAXX RS」にも、新しくデビューした「SPORT MAXX LUX」にも「SP」の文字は見当たりません。誤植ではありません。まるでひっそりとブランドを再構築するかのように、「SP SPORT MAXX」が「SPORT MAXX」へと変更されていたのです。
その理由は何でしょう?
今やラジアルタイヤは当たり前の存在なだけに……
ブランド構築にはたゆまぬ努力が求められます。商標登録も取得しなければなりません。実はこれ、僕も申請した経験が少なくないのですが、許可が下りるまでには年単位の時間がかかります。申請は無料ではありません。商標登録の手続きは専門知識を要するため、通常は弁理士に依頼します。弁理士の報酬も決して安くはありません(住友ゴム工業ほどの大企業なら、社内に専門の部署があるでしょうが)。
さらに、ブランドを浸透させるには長い時間が必要で、短期間で確立できるものではありません。それでも「SP SPORT MAXX」から「SP」を外すのですから、よほどの理由があるに違いありません。そのあたりを探ってみたのですが……。とはえ、答えは実にシンプルなものでした。
「ロゴが長いから……」
だそうです(笑)。
たしかに、「SPORT MAXX LUX」が「SP SPORT MAXX LUX」では少し長すぎますね。「SPORT MAXX RS」も「SP SPORT MAXX RS」になると、ロゴのバランスが悪くなります。
ロゴはタイヤのサイドウォールに刻まれます。DUNLOPのロゴと「SPORT MAXX LUX」や「SPORT MAXX RS」の商品名が対角線上に配置されるのですが、一方のロゴが長すぎると、全体のバランスが崩れるのです。
さらに、長いロゴを薄いサイドウォールに刻むには、書体を細くする必要があります。すると、文字が細すぎて目立たなくなる。スポーツ性能を謳っているのに、イメージがか弱いのも困る……。
「な〜んだ、そんな理由か(笑)」
そう拍子抜けした読者もいるかもしれませんが、ロゴは決して軽視できない要素です。印象に大きく影響を与えます。それを見直したということは、ダンロップが「SPORT MAXX」に並々ならぬ想いを込めている証拠でしょう。
次に「SP」が外されるのは……?
とはいえ、「SP SPORT MAXX 060+」には「SP」が残ったまま。しかも、かなり長い。この整合性はどう説明するのか……という疑問もありますが、おそらく次回のモデルチェンジのタイミングで、「SP」が外されるのではないかと僕は予想しています。
ちなみに、SPの語源は「SPORT」ではありませんよ。そうだとすると、「SPORT SPORT MAXX」になってしまいますからね。
SPとは「SPECIAL PRODUCT」の略です。遠い昔、タイヤの構造がバイアスからラジアルへと移行する際、特別なタイヤであることをアピールするために「SP」が付けられました。しかし、今やラジアルタイヤは当たり前の存在。「SP」はその使命を終えた……とも考えられるわけです。なるほど……ですね。
となると次の楽しみは、「SP SPORT MAXX 060+」からいつSPの文字が消えるかですね。